思い出 ページ9
.
その日の夜、天使は私が部屋にいても眠るようになった。天使は、まるで眠ったまま時を止めているかのような寝方をすることを私はその時はじめて知った。彼が神の遣いと呼ばれる天使であるからなのか、それとはまた違うのかわからないが、古めかしくも清廉な童話の登場人物のような荘厳さがある。今にも透き通るような飴色の瞳を開けて起き上がりそうで、躍動感とリアリティのある絵画を見ている気分だった。
その姿を横目で眺めながら、足音を立てないように忍び歩く。彼が瞼を開けてしまうことがないように充分気をつけながら。せっかく彼が心を開いてくれようとしているのだ。それを無碍にするようなことはしたくない。それに、警戒せずに眠れることが幸福であることを知っている。
そうして部屋を出て、そっとドアノブを閉めた。目線を移して、リビングの近くにある無造作に積み上げられたダンボールを見上げながら歩みを進めた。
この部屋に引っ越してきて10年経つ。しかし私はこの10年働き続けていた社畜だった。最低限の生活ができるように家具や洋服の荷解きはしているが、それにより残ったのは娯楽品の数々である。何が言いたいのかというと、全ての荷解きが終わっていないのである。
「っし、やるか」
現在は無職だが、いつかは転職活動もしなくてはいけないのだから暇なうちに片付けておきたい。なるべく手早く終わらせよう。
日焼けした高校時代の教科書。読みすぎてボロボロになった文庫本。日本に回ってきた展示会で買った好きな画家の画集。捨てられないぬいぐるみ。それらを梱包から取り出し、まっさらで空っぽな棚に並べていく。
「流石に結構あるな・・・・・・」
自分の不精さが悪いから仕方ないことではあるけれど、まさかここまでやっていないとは。半ば苦笑いしながらダンボールを開き、梱包を解いていく。
そして、「それ」を見つけた。
「うわ、懐かしー」
出てきたのは昔のアルバムだった。思わず手に取ってパラパラと捲る。たくさんの思い出深い写真に溢れたアルバムは、引っ越しの時に両親から持たされたものだった。こんなに写真を撮っていたのかと驚きがあったし、何よりもそれを持たせてくれる両親に少し笑ってしまったのをよく覚えている。
これあったなぁ、こんなのいつ撮ったんだ。そう呟きながら眺めていくがふと、あるページで指が止まる
「はは、あいつ可愛いな」
そこにあったのは、小さな肩を抱いて笑う自分と緊張したようにこちらを射抜く従兄弟の姿だった
842人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
利き手(プロフ) - ずぎ......ずぎ.........なんかもう言葉で表せられないほどすきです......更新待ってます........... (4月25日 18時) (レス) @page26 id: cb93d75c77 (このIDを非表示/違反報告)
、 - この作品に一目惚れしました!!!更新頑張ってください!待ってます!! (6月11日 22時) (レス) id: b2a72ce1c2 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します。少し前から拝読しているのですが、仕草や声の一つ一つに自然の意思が宿るような、人ならざる描写が美しく、惹きつけられました。今後二人がどのように交流していくのかが楽しみです。どうか作者様の無理の無い範囲で執筆頂ければ幸いです (2023年4月22日 2時) (レス) @page24 id: 9675cfd2c8 (このIDを非表示/違反報告)
ある(プロフ) - 更新本当にありがとうございます!!ずっと楽しみにしておりました、作者様のペースで進めて頂けると幸いです! (2023年4月21日 23時) (レス) @page24 id: 7187551de4 (このIDを非表示/違反報告)
ペペロンチーノ(25)(プロフ) - 更新待ってます! (2023年4月16日 15時) (レス) @page23 id: c1a1942ea9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM
作成日時:2022年10月3日 16時