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歩み寄り ページ7



触ってもいい?そう聞いた私に、彼は小さく目を瞬かせた。ミルクチョコレートドリンクを覗き込んだような底の見えない瞳が歪んでいる。それについて何も言わず、ベッドの近くに寄って行った。
言語が通じないというのは厄介だ。わかっていたことではあるが、この抜け殻のように陰鬱な美しさを持つ天使に出会ってから余計に思うことだった。たとえどんなに身振り手振りで説明できても、それには限界がある。お互いに何を言っているのかわからないまま相互理解ができないのは生活の上での障害だ。
(せめて私が彼の言語を喋れればいいのだけど)
それができないから困っているのは承知の上で、そんなことを思った。天使が悪いわけではない。異端種族というくらいなのだから人間以外の動物と同じように、彼ら自身のコミュニティと言語、伝達方法がある。わからないという感情を示す方法として癇癪を起こしたり暴れ出したりするのは人の傲慢だ。
電気もつけていない、儚い日の光だけが差し込んでくる部屋の中。天使はそれでもどこか存在感があり、ここがどこかの教会であるかのような錯覚を覚えてしまうほどだった。思わず跪いて、教えを乞いたくなるような威圧的な魅力がある。翅がばっと大きく広がり、ぶわりと空気が逆立つのを感じながら、それでも歩み寄る。
敢えて、気にかけることはしなかった。怪我の調子を見たい、そのための一歩を、段階を今踏み出すだけ。
ベッドの上に座る天使の隣を一つ分開けて座る。それでも、天使は何も言わなかった。何も、しなかった。こちらに敵意がないことは伝わっているのかな、と嬉しくなって。そして手を差し出す。
「ーーーー?」
「どこまでなら、許してくれる?」
意図がわからない、という顔をした天使の目を逸らさずにじっと見つめる。手が震えていないだろうか。それすらわからないほど、集中していた。
触れることを、嫌がるのは生存本能と、多分何かあったから。それはわかっていた。だから「どこまでなら許されるか」「どこまでなら心を許すのか」を知りたい。
幸い包帯を巻いた翅からは血が滲むことはないようで、傷が傷んでいるようなそぶりは見せなかった。やはりそこは、人間とは違うのだろう。ならば包帯を取るためには少し時間をかけるしかない。何を悠長なことを、と思うけれど、きっとこうしなければもう、彼は心を許してはくれないだろうから。
「ねぇ、天使」
そう言った瞬間、ガラにもなく緊張した私の手に、天使の手がそっと重なった。

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利き手(プロフ) - ずぎ......ずぎ.........なんかもう言葉で表せられないほどすきです......更新待ってます........... (4月25日 18時) (レス) @page26 id: cb93d75c77 (このIDを非表示/違反報告)
- この作品に一目惚れしました!!!更新頑張ってください!待ってます!! (6月11日 22時) (レス) id: b2a72ce1c2 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します。少し前から拝読しているのですが、仕草や声の一つ一つに自然の意思が宿るような、人ならざる描写が美しく、惹きつけられました。今後二人がどのように交流していくのかが楽しみです。どうか作者様の無理の無い範囲で執筆頂ければ幸いです (2023年4月22日 2時) (レス) @page24 id: 9675cfd2c8 (このIDを非表示/違反報告)
ある(プロフ) - 更新本当にありがとうございます!!ずっと楽しみにしておりました、作者様のペースで進めて頂けると幸いです! (2023年4月21日 23時) (レス) @page24 id: 7187551de4 (このIDを非表示/違反報告)
ペペロンチーノ(25)(プロフ) - 更新待ってます! (2023年4月16日 15時) (レス) @page23 id: c1a1942ea9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM  
作成日時:2022年10月3日 16時

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