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私の言うことを聞いてくれるのもただ私が転校生で物珍しいからだとしか思えないし、いつ聞かなくなるかわからないから出来れば断りたいのだが、幸村くんの手を煩わせるわけにもいかないので出来るだけ引き受けることにしている。
急いでカバンに教科書などを詰め込み廊下に出ると人にぶつかってしまった。すみません、と慌てて謝ると相手は私の頭をポンと軽く叩いて言った。
「いきなり飛び出したら危険ぜよ」
「仁王くん……」
そう、彼こそが例の彼。仁王雅治くんである。常ににやにやと何か企んでいそうな顔で私を見てくる。そして、よくわからない方言で私をからかっては楽しんでいるのだ。
「部活の時間ですよ？」
「わかっとるが、まだお前さんがいなかったから戻ってきたナリ」
「そのまま参加してください。私も今から行くところなので」
「Aが手を繋いで連れてってくれるんだったら行かんことも無いがのぅ」
こんな感じでいつも変なことを言っては私をからかってくる。
「そんな恋人同士みたいなこと出来ません」
「つれんのぅ……あーあ、俺の懐が寒くて寂しくて風邪でもひきそうじゃ。誰か程よい小ささの同級生の女子でもおらんかのー」
「仁王くん、結構ファンいるから仁王くんの求める身長の子もいると思うよ？」
「いや、その身長はAしかおらん。抱き心地もAが一番ナリ」
「わかりました、じゃあ手を繋いでテニスコートまで行きましょう。それでいいんですね？」
手を差し出せば嬉しそうに笑って手を取る。いつもは年上みたいに見えるのにこういう時だけは同い年、いや年下に見える。身長は高いのに……。
ふと頭によぎるのは別れてしまった彼氏。年下なのに身長がすごく高くて私はいつも見上げてばかりで、目が合うといつも人懐っこい笑顔で私を癒してくれる。
ああ……重いよね、ごめんなさい。また彼の事を考えては、くよくよする自分に心底腹が立つ。悪いのはきっと私なのに。
「どうかしたんか？」
「ううん。仁王くんとは関係ない事だから……ごめんね、行こうか」
その時、仁王くんが機嫌の悪そうな顔をしていたということは全く気付かなかった。たいして引き延ばすような話でもないしそこで話すのをやめたら仁王くんも特には聞いてこなかった。
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作者名：宇治銀時 | 作成日時：2024年1月6日 23時
