53. ページ5
気が付くと私は、清光のことを抱き締めていた。
「あ…るじ、？」
清光の驚いたような声を聞いて、自分自身も驚く。
けれど、到底離す気にはなれなかった。
清光が前任者を殺したことばかりに意識がいって、いつのまにか自分の疑いや不安の気持ちを優先していた。
そもそも清光とて被害者で、追い込まれてやった事。
自らの手を汚してまで仲間を護ろうとするような彼を、泣きながら捨てないでくれなどと言わせるほどに追い詰めてしまった。
傷付けないと大口を叩いておきながらなんと言う体たらくか。
「ごめん…清光。書庫で、以前の記録を見た」
私の言葉に、清光がぴくりと反応する。
「記録を見て…清光を疑ってしまった」
抱き締める腕の力が、無意識に強くなった。けれど清光は、逃げることも拒絶することもしなかった。
じっとしている清光と顔を合わせられるよう、少しだけ腕の力を弱める。
「加州清光、私は貴方を捨てない」
「！」
それまで無反応だった清光は、私の言葉に目を丸くした。
合わさった視線の先で、清光の瞳に光が宿るのが見て取れる。
「……ほんと？」
子供が大人を窺うようにして短く尋ねる清光に、こくりと頷く。
「自分の気持ちを優先して、意地の悪いことをした。近侍を変えたのは清光のせいじゃない」
その様子にほっと安堵しつつ、清光の髪を撫でる。
「これは私の気持ちの…弱さが招いたこと」
清光は私の言葉を聞き漏らすまいとするように、静かに聞いていた。
そんな清光の手を取り、そっと力を込める。
「……清光こそ、こんな不甲斐ない主を捨てないでいてくれる？」
尋ねると、清光ははじめぽかんとした表情を見せたけれど、すぐにその表情をくしゃりと歪めた。
「……っ」
清光は私の肩に顔を埋めると、嗚咽を漏らした。
恐らく泣いているであろう清光の背中を撫でていると、あっという間に時間が過ぎていくような気がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽん(プロフ) - 嵯峨野ルナさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…！しばし離れていたジャンルですので少々浦島ですが、こんなお言葉を頂けてありがたい限りです…！ら良ければお暇なときにでも、引き続きお付き合いくださいませ (10月14日 14時) (
レス) id: 87fc64d822 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 最高な作品に出会えて嬉しいです。お体に気を付けて、更新楽しみにしております！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 初めまして！コメント失礼いたします。とても素敵な作品で1日に2度も繰り返し読んでしまいました。綺麗な言葉遣いでキャラクターの魅力が惹き立っていますし、夢主も私好みでキャラ達との関係も今後が非常に楽しみです！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽん
| 作成日時：2023年10月9日 16時
