70. ページ22
「！」
戦績に目を通していると、頭の中で小さな鈴の音を鳴らされたような独特の感覚が巡る。
「……今のは、」
他に勘違いのしようもない、時空の歪みが出現したときの感覚。
装置が作動していない今、どうして時空の歪みが。
「巴形薙刀！」
考えるよりも先に、体が動く。
「ここにいるぞ」
今日近侍を務めていた巴形は、私の呼びかけにすぐに応じた。
「……大門前、数は人型が三、獣型が一？…何これ」
目を伏せ神経を研ぎ澄ませると、近いからかすぐに具体的なイメージが脳内を駆けた。
本丸は戦力の要。そう易々と気取られることはないように綿密な技法を用いて隠されている。
それが破られたのだとしたら、非常にまずい状況だ。
「主！」
やや乱雑に襖を開けると、時間差で異変を察知したらしい刀剣男士たちが部屋の前に集まっているところだった。
彼らの視線を一身に受けていた私は、これ幸いと声を張り上げる。
「第一部隊は大門へ！帯刀している者は守備に回りなさい！」
さすが日頃から戦場に身を置いているからか、彼らは一度経験するか否かという程度であろうこの緊急事態にも動じることは無かった。
その様子にゆっくり感心している暇もなく、私も大門に向かって駆け出す。
「巴形、練度の低い者たちの護りを頼みます！」
半歩後ろに続く巴形に伝えると、その眉間に皺が寄る。
「俺は主を護らねば…」
「お願い、頼める人は限られているから」
不服そうな表情に有無を言わさぬように切り返すと、巴形は諦めたように「わかった」とひとことだけ答えて踵を返した。
やがて見えてきた大門の付近には砂煙が立ち上っており、その実態は未だ不明瞭だった。
それらの前に、戦装束に身を包んだ第一部隊の面々が次々と降り立つ。
「闖入者とはこの者らか」
最後にこの緊張感など無いものかのように優雅に舞い降りた影が、ゆらりと立ち上がった。
「……さて、給料分は仕事をするか」
彼らがそれぞれ戦闘態勢に入ったことを確認し、声を張る。
「審神者の名において、闖入者に対する戦闘行為を許可する！」
砂煙が徐々に晴れ始めるのを待たず、刀剣男士たちが鯉口を切る。
「！！」
しかし、彼らが一歩踏み込んだ瞬間、砂煙の隙間から見えた衣を見た私は間を空けずに再度制止の声を上げることとなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽん(プロフ) - 嵯峨野ルナさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…！しばし離れていたジャンルですので少々浦島ですが、こんなお言葉を頂けてありがたい限りです…！ら良ければお暇なときにでも、引き続きお付き合いくださいませ (10月14日 14時) (
レス) id: 87fc64d822 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 最高な作品に出会えて嬉しいです。お体に気を付けて、更新楽しみにしております！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 初めまして！コメント失礼いたします。とても素敵な作品で1日に2度も繰り返し読んでしまいました。綺麗な言葉遣いでキャラクターの魅力が惹き立っていますし、夢主も私好みでキャラ達との関係も今後が非常に楽しみです！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽん
| 作成日時：2023年10月9日 16時
