65. ページ17
「かの異国では、婚姻に際して左手の薬指に宝飾品を身につけるらしい。君はその理由を知っているか？」
私はその問いかけに、すぐには答えられなかった。
現代では日本でも結婚指輪が広く普及しているが、私はそのその理由までは知らない。
あるのはせいぜい、西洋の文化を取り入れたからでは…という浅い知識くらいだ。
鶴丸は考え込んでいる私を見て満足気に口端を持ち上げると、合わせた手のひらをほんの少しずらして、包むように私の手を握った。
「！」
私が驚くのも構わず、鶴丸が続けざまに口を開く。
「何でも、左手の薬指というのは心臓に繋がる血管が通っていると言われていたそうだ。それが転じて、相手の心を強固に掴むという意味合いがあるのだとか…」
相変わらず、鶴丸は人に聴かせるというのが上手い。
感心していると、鶴丸が私の薬指に自分の薬指を絡めた。
「…何です？」
私が聞いても、鶴丸は答えない。
巻き付くように絡んでは離れる指は、擽ったいような、もどかしいような、そんな不思議な感覚を感じさせた。
「…っ鶴丸、何を」
「何ともいじらしい話だとは思わないかい？」
「！」
言い表し難いその感覚から逃げるように手を引こうとすれば、すぐに捕まえられて同じことが繰り返される。
「……私は、」
すっかり捕らわれてしまった手を逃がすのは諦めて、せめてもの抵抗のつもりで鶴丸を睨む。
「…私は、自分の独占欲を満たすために相手を囲ってしまうことには…疑問を、感じますが」
鶴丸の触れ方に言葉が途切れるのを堪えながら、それでも言い切る。
と、その目が妖しく細められた。
「そうか？俺はその独占欲とやら、わからないでもないぜ」
「貴方が？」
くすくすと笑う鶴丸に、思わず本音が口から漏れる。
「貴方はそういうものが嫌いだとばかり思っていました」
しかし鶴丸は私の言葉はさして気にしていない様子で「そうでもないさ」と笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽん(プロフ) - 嵯峨野ルナさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…！しばし離れていたジャンルですので少々浦島ですが、こんなお言葉を頂けてありがたい限りです…！ら良ければお暇なときにでも、引き続きお付き合いくださいませ (10月14日 14時) (
レス) id: 87fc64d822 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 最高な作品に出会えて嬉しいです。お体に気を付けて、更新楽しみにしております！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
嵯峨野ルナ(プロフ) - 初めまして！コメント失礼いたします。とても素敵な作品で1日に2度も繰り返し読んでしまいました。綺麗な言葉遣いでキャラクターの魅力が惹き立っていますし、夢主も私好みでキャラ達との関係も今後が非常に楽しみです！ (10月14日 10時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽん
| 作成日時：2023年10月9日 16時
