茜の蓬莱蕉 (ページ8)

今日:7 hit、昨日:26 hit、合計:7,343 hit

8. ページ8

「迷った……」

いつの間にか用意されていた着替えに袖を通し、言われた通り大広間に向かおうとしていくら時間が経っただろうか。

当然のごとく自分の本丸とは造りの違う本丸で、私は迷子になっていた。

「はぁ……」

霊力を使い切ったあとだからか、休んだとはいえ疲労しやすくなっている。

「……」

それでも辿り着けないことに、少し安堵している自分がいた。

「私は、私のために力を使っただけ…」

それなのに、どの面下げて感謝を受けるというんだ。

厚顔無恥にも程がある。

「おや、ここにいたか」

膝を抱えていると、頭上から声が降ってくる。

「皆お前さんをお待ちかねだぞ？こんな所で何をしている」

顔を上げると、不思議そうにこちらを見下ろす刀剣男士と目が合う。

「一文字則宗様」

「ああ、昨夜振りだなぁ」

うはは、と特徴的な笑い方をするその人がこちらに手を差し伸べる。

うちの本丸に一文字則宗はいないから、いまいち彼という刀剣男士のことは掴めていない。

「もしや迷子か？」

「……」

冗談めかして笑う彼から、そろりと目を逸らす。

「……まさか本当に迷っていたのか」

その問いに答えずにいると、彼は一拍置いたあとで盛大に吹き出した。

そんな彼から逃げるようにしてその場から離れようとしたものの、それはすぐに阻まれる。

「何故逃げる？僕が案内しよう、敷地内だが……っふ、」

笑いを堪えながら私の手首を掴む一文字則宗に観念して、ぺこりと頭を下げる。

「……お願い致します」

どのみち、いつまでも顔を出さないというわけにもいかないし。

話を、しておかなければならない。