茜の蓬莱蕉 (ページ7)

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目が覚めたとき、空高く昇っていた月はすっかり太陽にすり変わっていた。

「…あのまま倒れたか」

倒れて、その後ここの加州清光に運ばれてきたんだろう。

「ということは、ここは…」

一人にしては広い室内、整頓され清潔に保たれているここはおそらく…

「おはよ」

明るい声に、心臓がどくりと音を立てた。

「…き、よ」

「大丈夫？なんかまだ顔色悪い気がするけど」

振り返った先、加州清光の姿を見て、反射的に目を逸らした。

「……大丈夫です、お手を煩わせました」

まだ、気を抜いていると清光と彼が重なる。

見た目が同じなのだから無理もないけれど、それでも頭が彼を清光だと認識する度に、心臓が軋む。

それが罪悪感からくるものなのか、あるいは他の何かなのかはわからない。

加州清光はそんな私の様子を見て、目を伏せる。

「…もうちょい休んだ方がいいかもね。話、出来そうになったら呼んで」

気を使ってくれたらしい清光が、踵を返して部屋を出ようとする。

「待って…！」

私は何も考えず、その服の裾を掴んでしまった。

「あ…」

そうしてすぐに、やってしまったと後悔の念がつのる。

「…申し訳、ありません…後程改めてお声がけいたします」

ぱっと手を離してから、気まずくなって顔を逸らした。

「……ん、わかった」

彼はそんな私に何か言うわけでもなく小さく相槌すると、その敷居を跨いだ。

「あ、そうそう」

しかしそこで足を止めると、顔だけ振り向いて唇に穏やかな笑みを乗せる。

「うちの連中があんたにお礼がしたいって言ってるから、良くなったら大広間に来てね」

「え……」

お礼、という言葉に、ちくりと胸が痛む。

それじゃ、とひらひら手を振って部屋を出て行ってしまう加州清光を止める手立てもなく、項垂れる。

「お礼なんて…されていい人間じゃない」

私がここに来たのは、私のため。

清光を救うため。自分の力不足を補うため。

そのために彼らを─────利用するつもりなのに。