茜の蓬莱蕉 (ページ44)

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「何でまた、そんな顔するの」

顔が熱い。

自分の姿なんて見えないから、確かめようもないけど。

多分私は、酷い顔をしていたのだと思う。

「……ち、が」

やっと口から出た声は、形にもならずに落ちて消える。

誤魔化すように、あげた腕で顔を隠した。

「清光は……勘違いしてるだけ、……」

言い聞かせるようにした言葉は、清光に向けたものというよりも、自分に向けたもの。

「……それは違うって、言ったばっかりだよ」

清光は一呼吸置いて、私を真っ直ぐに見た。

その視線に耐えきれず、すぐに目をそらす。

「主……こっち向いて」

できない。

小さく首を横に振って、拳を握りしめる。

「ねぇ、」

「！」

気がつくと、間近まで近付いていた清光が私の両頬を包んでいた。

「離……」

「嫌ならはっきり断ってよ」

鼻先が触れ合う距離で、清光の赤い瞳が潤む。

「あの日みたいに、主が一言やめてって言ったら……俺、」

焦りと、迷いと、戸惑いとが綯い交ぜになったような辛そうな声から逃げるように目を伏せた。

「前任者と比べたら、誰だって良い主に映る……だから、清光は私じゃなくても」

亀甲に言ったことと同じことを口にしながら、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

怖々と震える清光の指先が、漏れる声が、灼かれそうな程熱い視線が、冷静さを損なわせた。

「……答えになってない」

清光は私の返しを受けて眉を寄せると、少しだけ顔を傾けた。

そのせいで更に近くなった距離で、目を細める。

「……！っあ……？」

突然背筋を伝った指先に、驚いて声が漏れ出た。

「何で何も言わないの」

「っき、清光……ん、」

唇が首筋を這い、手のひらが帯に差し込まれる。

力んだ手が清光の肩口の衣を強く掴んだとき、その動きが止まった。

「……早く言ってよ、やめろって。俺は大勢の刀剣男士の一振でしかないって」

清光の表情は見えない。

私が何も答えられないでいると、耳元のすぐ近くでふっと小さく笑う声がした。

「怖くて、声が出なくなっちゃった？」