茜の蓬莱蕉 (ページ42)

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「俺、約束破っちゃったよね」

場所を執務室に移動してすぐ、清光が申し訳なさそうに口を開いた。

「……？」

約束というのが何を指しているのかわからず、返答できないまま沈黙が降りる。

「主のこと、護るって約束したのに。むしろ俺の方が助けられて、守られちゃってさ」

続いた清光の言葉に、やっと何を指しているのかに気が付いた。

確かに言っていた。私がこの本丸の彼らを傷付けない限り、私を護ると。

「…それを言われると耳が痛い」

「？」

苦笑しながら返すと、清光が首を傾げた。

「傷付けないと約束したのに、…ごめんね」

謝罪の言葉を口にすると、更に気が滅入りそうになる。

「……ね、主」

「うん？」

いつのまにか俯いていた私は、清光の声に顔を上げる。

視線の先の清光は穏やかに、または困ったように笑っていた。

「俺さ、主のこと愛してる。主として、だけじゃなくて」

どこまでも優しいその声を遮ることも出来ず、ただその言葉の続きを待つ。

このまま黙って聞いていてはいけないと、頭の奥で誰かが言っているような気がした。

それでも私は、口を噤んだままでいた。

「でも、この気持ちは勘違いじゃないし、あの場限りの感情なんかじゃない、絶対」