茜の蓬莱蕉 (ページ36)

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「ご主人様は加州くんを愛していないのかい？」

「い、や…愛していますが、それは意味が……」

「質問を変えよう。加州くんにされたことと同じことを彼にされて、これまで通りにできる？」

言って亀甲が安定を指さす。

清光にされたこと…

「っ何で知っ…、！」

言われたことに対して辿った記憶に、顔が熱を持つ。

どうして知っているのかと問おうとして、ぐっと頭に血が上りそうになるのを堪えた。

「……清光は、主と臣に戻る選択をしました」

「彼のせいにするの？」

亀甲の鋭い言葉に、内心は狼狽していた。

いいや、違う。

清光を受け入れなかったのは私の意思で、清光だって納得したから元に戻ろうとしてくれたんじゃないか。

清光のせいになどしていない。だって私は清光のことを、皆と同じように大切に思っている。

劣情を向けていい相手ではないし、向けられるべきでもない。

「清光は勘違いしているだけ…前任者と比べれば、誰だって良い主に見える」

私じゃなくたって、きっと清光は

「…あ、主」

そのとき、戸惑ったような安定の声に意識の渦から引き上げられる。

顔を上げると、安定はどうしてか少し気恥しそうに目を逸らした。

その所作の意味がわからないでいる私を見て、亀甲が可笑しそうにに笑った。

「全く、ここまでくると鈍感なんて程度じゃ済まないね」