茜の蓬莱蕉 (ページ34)

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本丸に戻ると、帰りを待っていたという刀剣男士たちから歓迎を受けた。

「君はとても愛されているんだね」

一文字則宗から道中の護衛を任された亀甲貞宗は、微笑ましげに私を見下ろす。

「霊力の供給源ですから、不思議はないでしょう」

そう返すと、彼は面食らった様子で目を瞬かせた。

「ご主人様、僕が言うのもなんだけど……」

「おかえり、主」

彼がため息混じりに何かを言おうとしたのを遮る声がして、振り向く。

柔和な笑みを乗せて声をかけてきたのは、大和守安定。

当初ほどの敵意はないものの、未だ絶妙に距離感のある一振だ。

「ちょっといい？」

何か話したげな雰囲気を感じ、傍に寄ろうとして「彼には待ってて貰いたいんだけど」と制止されてしまう。

亀甲の方へ視線を投げたところで、視線の先の彼が微笑んだまま小首を傾けた。

「そうはいかないな。僕はご主人様の側仕えを仰せつかっているからね」

「……ああそう」

頑として退く様子がないことを察したのか、安定は案外すぐに引き下がる。

場所を変えて少し、私は重い口を開いた。

「聞きたいのは清光のこと？」

尋ねると、安定は小さく笑った。

「その顔を見る限り、奪還は上手くいったみたいだね」

「……何とか。それも私の力というわけではないけどね」

情けなくもそう答えて、ちらりと安定を見やる。

彼と清光は旧知の仲だから、今回も相当心配してくれていたのだろう。

「清光のこと、どこまで本気？」

そのとき、安定から飛び出した言葉に固まる。

「……は、…え？」

まさか安定からそんなことを聞かれるとは思っておらず、素っ頓狂な声が漏れる。

私の動揺を見て、安定が何故か目元を綻ばせる。

「私情か審神者としての責任からかはさておき、主は清光から一線引いてる」

俯く私に、決して責めている訳では無いと、安定は言った。

「貴方は清光にとって一番だけど、清光は貴方にとっての一番にはなれない」

どこか穏やかな調子で続ける安定の言葉には、節々から清光を案じている様子が窺えた。

「…だから清光が戻る前に、貴方の気持ちを聞いておきたい」

真剣なその声に、思わず目を逸らす。

と、亀甲が不思議そうに「なんの話をしているんだい？」と声を上げた。

「君には関係ない」

眉を寄せた安定が、苛立ちを隠さない様子で応じる。