茜の蓬莱蕉 (ページ29)

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「上手くやったようだな」

清光と本丸に戻ったとき、出迎えたのは一文字則宗だった。

上機嫌に私たちを眺める彼を見上げていると、視線が重なる。

「……貴方が、入れ替わりを提案したと聞きました」

結果私たちは助かった。この方法であれば、加州もここに戻ってこられるだろう。

でも、

「どうして、私たちを助けたのですか。自分たちが…仲間が、危険に晒されることがわかっていながら」

そのときの私の言葉はもしかすると、彼を責めているようにさえ聞こえてしまったかもしれない。

けれど、聞かずにはいられなかった。

彼は、元々政府にいた刀剣男士。そして今回、清光の処分に異議を唱えた政府の刀剣男士にそうするよう指示したのは彼だった。

その指示があったのは、私がこの本丸に来る前。

彼は私と会いもしないうちから、私たちを助けるための行動を起こしていた。不利益を被る可能性がありながらだ。

彼の行動の説明がつかない。

加州に話をしたあと、私は一文字則宗に呼び立てられた。そうして尋ねられたのだ。加州清光を救うために、どれだけを犠牲にできるかと。

「何故、あのとき私の答えを聞いて尚…わざわざ私たちを助けることを選択したのですか」

一文字則宗は、緩く笑んだ表情を崩さないまま目を伏せた。

「…その問いに答えるなら、理由は二つだな」

彼は後ろを振り返って、屋敷を仰ぎ見る。

「お前さんらを助けたのは、ここが大事だからこそだ。ここにいるのは損得を考えられん馬鹿正直な連中ばかりだからな」

小馬鹿にしているとも取られかねないその物言いは、彼の愛おしげな目を見ればそうではないことがすぐにわかった。

私たちの存在を知って捨て置けなかった、と言う意味だろうか。理由とするには、少し弱い気がするけれど。

「もうひとつは…」

考え事に耽りそうになって、彼の声にはっとする。

一文字則宗はそんな私を見てふっと笑うと、大きな手のひらで私の髪を無造作に撫でた。

「っ…！？」

突飛な行動の意味がわからず混乱する私を置いて、彼は朗らかに笑った。

「もうひとつは……まぁ、ただの年寄り見栄といったところだ」