茜の蓬莱蕉 (ページ20)

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「どこからって、狡いことしてごめんとか何とか言ってた今の一瞬だよ。ほんと気付くの早いんだから」

その言葉を受けて、彼はわかるか分からないか程度の安堵した様子を見せると「清光って目敏いよね」とジト目になる大和守に「うっさい」と素っ気なく答えた。

「…先に戻ってて。俺らもすぐ戻るから」

目を逸らしてそれだけ伝える加州を怪訝そうに見ていた大和守は、しかしすぐにわかったと答えて部の中へ戻って行った。

「……」

私たちの間に、沈黙が降りる。

この本丸をそのままにしておくつもりはない。

けれどその方法として、私がこの本丸の主となるという手段を選択するつもりも無い。

と言うより、それだけの余力がないと言った方が正しいかもしれない。

本来、審神者とて二つの本丸を兼任できるほどの霊力は持ち合わせていない。もしそんな存在が存在するなら、おそらくそれは人間とは言えない別の生き物だ。

それも、神獣や神といった類のみと言っても差し支えないだろう。

霊力とは即ち生命力、そしてそれを感じ取る力でもある。

少なければただの人、ないし力不足の審神者となるだけだが、その器以上に霊力を持ち合わせるということはない。

仮にもし、無理に霊力を注げば不可に耐え兼ねた精神も肉体も細切れになる。

ちなみにこれは比喩ではなく、本当に細切れになる。霊力というのはそれだけ扱いに気をつけなければならない代物なのだ。

以前何を思ったか、霊力を増大しようとした審神者が肉片となった事例は記憶に新しい。

多少無理を通せば、短期間なら兼任も可能だが…せいぜい出来て一月といったところだろう。

「…すぐに答えを出せとは言わない。だけど、お互いに時間もない」

加州は私の心を透かして取ったかのようにそう言って、困ったように笑った。

「あんたの、悔いが残らない方を選んでよ」