【銀魂】己の行く道 繋がる手と手【土方十四郎】

何を見ているの？ ページ35

「……土方さ〜ん？」

土「……」


…上の空。今の土方さんにはその言葉がぴったりと当てはまるだろうか。私の声に何の反応も示すことなく、ただただボウ〜っとしている。こんな土方さんを見るのは初めてかもしれない。

いつもと様子が違う彼が妙に心配になり、私は土方さんの顔を覗き込んでみる。


「……」


…何を、見ているんだろう。土方さんは、頬杖をついて目の前の一点を見つめているはずなのに、その目には、書類も筆も見ていない。

何処か、ここではない何処か。というより、ここには無い物を見ているような。何か、遠い記憶に思いを馳せているかのような。

…その目は、悲しげで、切なげで、……何かを慈しむかのような、そんな目だった。今まで見たことのない、悲しい色をした目。


……土方さん、今貴方は、何を見ているの？


「土方さん！」

土「っ！！」


私は土方さんの肩に手を置いて、大きめな声量で彼を呼んだ。すると肩をピクリと揺らし、丸くさせた目で私を捉えた。その目はもういつも通りに戻っていて。


土「…なんだよ、…んなデケー声出さなくても…」

「聞こえてませんでしたよね。何回も呼んでたんですよ？」


私が何も考えずにしたとでも？と、じっとりとした視線を投げつけてやると、決まりが悪そうな顔を浮かべて「…そうか」と。


土「悪かったな。で、何だよ？」

「……土方さん、何かありました？」


土方さん、明日は何処に行くんですか。そんな質問は後回しだ。今は、土方さんの様子がおかしいことの方が気になる。


土「…別に何も」

「何もない人がそんな辛気臭い顔しますか」


どう考えても、今の土方さんはおかしい。それを隠したいのか何なのか知らないが、土方さんはまた新しいタバコを一本取り出しては、口にくわえた。


土「……何でもねぇよ。…用がないなら仕事に戻れ」

「…」

…嘘だ。そんなのはもう一目瞭然で。

土方さんの、悲しげな色を帯びた目が、脳裏に鮮明に甦る。焼き付いて、離れてくれそうにないな、と。内心苦笑しながらに思った。

……そして何故か、何か隠し事をされたことに、嘘をつかれたことに、

…私の胸はツキン、と、鈍く小さく痛みを覚えた。

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