昔話 ページ1
Aside
……あの日の、土方さんの指の温度が、まだ鮮明に思い出せた。
まるで、割れ物を扱うかのような優しい触れ方に、私は少しだけ、ほんの少しだけ戸惑ってしまった。いつもの彼とは何処か違う、優しげな眼差しにも。いつも目だけで人殺せそうなのに、あの時の土方さんの目は、見たことがないくらいに、優しかった。
「……よし」
右足に包帯を巻き終え、私は一人の部屋でそう呟いた。まだ痛む右足にあまり体重をかけないようにして立ち上がると、私は部屋を出た。
……真選組、ポッキーよりトッポ派の副長補佐である私こと、赤坂Aは、今日も変わらず仕事をするべく土方さんの部屋へと足を進める。まだ速く歩けないのだが、まぁ一人で歩く分には問題ない。
……そんなことより。
(……なんだったんだろ、アレ…)
歩きながらに考えるのは、あの夜の土方さんのことだった。あの日、真選組ではお疲れ様会が催されており、私もそれなりにお酒を飲んでいたせいか、たまたまなのか、私の部屋を通り掛かったらしい土方さんに、ついつい昔のことを話しすぎてしまった。
土方さんも少しだけ酔っていたのか、よく喋っていたようにも思えた。
『……好きな人に、貰ったものなんです』
…あーあ、なんだってあんなことを言ってしまったのだろうか。でもなんとなく、自然と、私の口からポロリとそんな言葉が溢れていたのだ。
『……好きだったんですよ、アイツのこと』
「…ああああ……」
思い出しただけで床に転がってのたうち回りたくなる。土方さんに笑われなかったのが不幸中の幸いだった。あそこで笑われていたら、まぁ多分キレてただろうけれど。
まぁそんな訳で、少しだけ昔話をしていたのだが、それもお開きになろうとしていた時だった。
…何を思ったのか土方さんは、自身の右手を伸ばして、私の頬に触れたのだ。指先だけを、撫でるように。
優しくて、暖かくて、なんでかすごく安心してしまった。久しぶりに、あんな大切に誰かに触れられた気がした。
「…、」
その手のぬくもりを思い出すように、私は自分の頬に少しだけ触れる。ここに、土方さんの指が触れたのだ。ほんの、一瞬だけ。
まさか土方さんにそんなことをされるとは思わないだろう。それはそれは驚いた。それこそ、暫くその場から動けなくなるくらいには。そう。呆気に取られて、私はあの時思考停止していたのだ。漸く動いたのは10分程経過してからだ。
…まぁ、そんな訳で、そんな夜が数日前のことなのだけれど。もうあれから数日が経過したのだけれど。
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のゆり(プロフ) - ピピコさん» いえ!私無類の土方推しでして!沖田の方の小説も楽しみにしています!これからも更新頑張ってくださいね! (2018年1月4日 10時) (レス) id: b3b81574c1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - のゆりさん» のゆりさん!ありがとうございます!一気読みなんて嬉しいです!ご指摘もありがとうございました!なんて恥ずかしい間違いをしていたのでしょうか…!!助かりました!引き続きお楽しみ頂けたらと思います! (2018年1月4日 10時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
のゆり(プロフ) - 失礼します!このお話とても好きになりました!一気読みしてますー!えと、1つよろしいですか!「お話を選んでね」欄の「by土方」のbがdになってますよー!「dy」土方になってます!以上です、失礼しました! (2018年1月4日 10時) (レス) id: b3b81574c1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - 獅子の子さん» このシリーズの夢主ちゃんは本当に私好みの性格なのでそう言って頂けて嬉しいです^^私の理想そのものなので! (2017年7月24日 11時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピ…ピピコさんっ! どうしましょう、この小説、もちろんトッシーもカッコいいんですけど、夢主ちゃんのさりげない優しさに惚れかけてる自分がいます! どうしましょう!←2回目 (2017年7月24日 0時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年6月25日 15時