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自らの里親は顔鼻立ちに関係なくどうしてこんなに美しく見えるのか。絵の世界に入った後でも、未だにAにその答えは分からない。
神にも魅入られそうなその出で立ちのせいで、常に生と死の狭間におかれているのか。それとも常に狭間にいるからこれほどまでに美しいのか。
畳の上に絨毯を敷き、その上に簡単なベッドを置いている。病室にあるようなベッド用の机に花のようなものがある。
銀時がそれを作りかけの造花であることに気付いたのは、ベッドの中の男が持っているオレンジ色の機械がホットボンド用のものだったからだ。
陶器のように白い肌だが、皺が目立つその顔は生物というにはあまりにも無機質で、それが造花とよく似合う。
襖を照らしていた光が男を照り付け、その非現実ぶりに驚かされる。
夕日に照らされた瞳がこちらへ向き、男はゆっくりと口を開く。
「どうしたんだ。もうこんな時間なのに」
年配の男性らしいしゃがれた声が、あまり人間らしくないその見た目に似合わない。
圧倒される銀時をよそに、Aは呑気に答える。
「だって、そろそろおかず無くなっちゃう頃でしょ?彰寿さん料理全然できないんだから……あ、そういえば野菜無いんだった」
冷蔵庫を勝手に開いて「困ったな」と腕組みするA。
銀時は部屋に入るでも、Aと冷蔵庫を覗くでもなく、ただどうしたらいいのか分からず、襖の傍に呆然と立っていた。
「わざわざ作りにきたのか。別に良かったのに。自分で作れるし」
「何強がってんの。彰寿さんがまともに作れるの造花くらいでしょ」
彰寿と呼ばれた男は、Aの言葉に眉を潜めむっとする。先程の無機質な印象とは相変わって、表情が豊かになる。
それから、襖の傍にいる銀時にふわりと微笑みかけた。
「君は……画塾の仲間かな?はじめまして」
「あぁいや、俺は……」
作り物のような瞳に見据えられ、うまく言葉の出ない銀時に代わり、Aがスラスラと説明する。
「ちがうよ彰寿さん。彼は坂田銀時さん。かぶき町でヨロズヤって店をやってて、最近知り合った友人なの」
「へぇ。Aが人を連れてくるなんて
な。そういえば画塾の生徒さんは一人も来たことが無い。どうですか銀時さん。こいつ、街でうまくやれていますか」
笑いながら続ける彰寿に、Aは「三者面談みたいなのやめてよ」と茶々を入れる。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2020年10月10日 22時