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それは人気のない深夜の橋の上で起こった。
心臓を正確に一突きにされたその肉塊はもう二度と動くことは無い。
それを見下す女は凶器である長細い刃物を刺した経路と1寸も違わずに抜き取った。
女は着物に返り血を浴びる前にその場を立ち去る。
足早に深夜の町を駆け、ある灯りのともっていない飲み屋の裏に周りこむ。
耳を済ませて中の人の気配をしばらく探り、物音が聞こえないことを確認したあとに、出口付近にあるゴミ箱の中から黒いビニール袋を引っ張り出した。
中身は一着の地味な袴。
女は自らが付けていた美しい髪飾りを引きちぎるように取り外す。
艶やかな髪は月の灯りに白く照らされる。
女は美しい着物から袋の中の袴に着替える。わずかな布擦れの音しかたてずに、それはものの数分で行われた。
袴のかわりに身に着けていたあらゆるものを袋に詰めて再び袋の口を閉じた。
ゴミ箱の中に再びそれを戻すと袴から携帯を取り出して短い文章のメールを打ち込む。
それを送信し、女は再びその場を足早に立ち去る。
今日の寝床を探すため、女は草木すら眠る町へと消えていく。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2020年10月10日 22時