その背中に触れたい【虎杖悠仁】

16.残り香 ページ17

その日はさっさとお風呂に入り
夕ご飯を食べた後

何も考えずに
なんとなく、悠仁の部屋に来てしまっていた






ドアノブに手をかけ
部屋に一歩入る



『悠仁の匂いがする…』



言葉にしたら変態みたいだけど
悠仁の使う柔軟剤と少し汗の混じった匂いが
私は好きだった

ベッドにそのまま放置された悠仁のパーカーに手を伸ばし、抱きしめる


『…っ、』


悠仁の匂い

大好きな人



本当に彼はもう居ないのだろうか



腕に力がこもり
つぶった目から
堪えきれなかった涙が
じんわりと滲み出て
床へパタパタと落ちる



悠仁がいなくなった実感は
全然わかないけれど


もういなくなってしまったらしい

もう、2度と会えないらしい


わからない
何もわからないのに
涙は勝手にどんどん溢れた



『悠仁ぃ、うぅぅっ、ひっ……』



悠仁のいなくなった世界で
私はどう生きれば良いのか
全くわからない


私は悠仁を守りたくてここへ学びにきたのに
結局また何もできないまま

世界一大好きな人を失ってしまった


お父さんが死んだ時
悠仁が何も言わずにずっとそばにいてくれたから
私は大丈夫でいられたんだよ

悠仁がいたから
私の心は守られて
道を間違えずにここまで来れたんだよ



悠仁がいない今のこの世界に
生きていく価値が見出せない


つい今朝
もっと強くなるって決意したはずだったのに




『無理だよ……っ、』




あの大きくて温かい手で
私の髪を撫でて欲しい

大丈夫だって言って
隣にいて欲しい


悠仁のその一言で
私はどこまでも強く、まっすぐでいられたよ






気づけば私はそのまま床で
うずくまって寝てしまっていた









次の日もその次の日も


先輩たちと交流会に向けての練習をして
その後はいつも悠仁の部屋へと足が向かった


残り香が完全に消えてしまう前に
少しでも長く
この匂いを覚えていたかった





どれだけの時間が経っても
部屋が片付けられる様子はなかったから
それに甘んじで
当たり前のように悠仁の部屋へ通うようになり



そのまま2ヶ月の月日が流れた

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