陽だまりの恒常2 ページ4
「そんなとこ座ってないでこっち来ないか?」
「や、ここでいい」
サクリ、と芳ばしいパンの香りがAの沈みかけた気持ちを僅かながら浮上させる。マグカップの中で揺れるコーヒーが鼻を刺激した。
「……に、にがい」
流れでコーヒーを注いだ一向に量が減らないマグカップを見つめながらAはちびちび口を付ける。席を立った万里がキッチンへ消え暫くしてマグカップを携えた万里がAの横を通り過ぎるその瞬間、Aが最初に使っていたカップと自分が持っていた物と取り替えそのまま自室へ繋がる階段を登る。
「……ホットミルクだ」
ハチミツ入りのホットミルク。優しい甘さがゆっくりと身体に染み渡っていく。一日部屋に引きこもるであろう万里はAがコーヒーを飲めない事も大人な味よりも甘ったるい飲み物を好む事をよく知っている。お互い知らない事なんてないと思っていた万里とAは幼馴染で、今は必要最低限の会話をするだけでそれ以上は口を利かない仲。
「……やっぱり万ちゃんは優しいよ」
時々、こうして万里は人目を偲ぶようにAに優しさをみせる。バカみたいに笑い合っていたあの頃に戻れればと望むのは自分だけなのだろうか、万里との距離を実感すればするほど息が苦しくなる。
中庭で倉庫でみつけた水鉄砲という名の夏の名残で遊んでいた太一と一成達がふととある姿を見つけ手を止めた。てっきりゲームに没頭して部屋から出てこないと思っていた万里がゲームで負けたのかお目当のレアが引けなかったのかハイライトが消えた瞳で寮をうろついている。
「セッツァーとAちゃんって同級生なのにな〜んであんな他人行儀なんすかね」
「さあ?学校が同じってだけでみんな仲良しってわけじゃないんじゃん?」
「ん〜そうなんすけど、なんかわざとらしいっていうか作り物っぽいつーか」
視線の先の万里がふと足を止める。大量の洗濯物を抱えたAがふらふらと頼りない足取りで談話室へ続く廊下を進む。途中そんな彼女に気付いた咲也が半分以上洗濯物を奪い、並んで歩いていく。その様子を見届け万里は反対方向へ舵を取る。
「……変なの」
太一がぽつりと言葉を洩らした。
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作者名:瀬戸 | 作成日時:2017年2月18日 22時