未来への切符 ページ8
琴子「何を言ってるの。お芝居でしょ?」
「やってていいのかな、これ以上……」
大人に望まれるまま。ファンの理想的な姿に。それが正解なんだと思ってた。だから無邪気でちょっと意地悪な子供を演じていたのに。
最近、何が正解なのかわからないんだ。みんなが何を求めてるのか、何もわからない。
琴子「あなたにそれ以外の何が出来るって言うの?」
「………」
琴子「……あなたがもし今から本気で打ち込むなら、野球選手にも、パティシエにも、宇宙飛行士にも、きっとなんだってなれるわ。だって若さがあるもの。情熱を注げばどんな種だって花を咲かせる。
それでも私は、奈々には芝居しかないと思ってる。あなたは間違いなく役者としてスターになれるわ」
芯のある声。本音でぶつかってきてくれてるのだろう。
「買い被りすぎだよ…」
琴子「当たり前じゃない。私はあなたのマネージャー、ビジネスパートナーよ。買い被りすぎくらいじゃなくてどうするの」
「僕は、……全然ゴールが見えないんだ。これから何をすればいいのかも、何を目指せばいいのかも、分からないんだよ」
琴子「ゴールは限界と一緒よ。たとえ霧の中でも、嵐の中でも、星空の中でも、あなたは役者でい続けるの。それがあなたの望みじゃなかったの?」
試すような声だけが静かに部屋に響く。鏡越しに見える琴子さんの目は少し赤いように見えた。
「そうだよ?僕は役者として生きて、役者として死ぬの。でも太陽は僕の隣にいてくれる。月は近くに来ようとしてる。星だって僕の周りを回ろうとしてる。だったら、僕の進む意味ってなにかな」
琴子「手を伸ばすだけはやめたんでしょう?あの人の、みんなの理想になるんじゃなかったの?」
「分かってる、分かってるよ。分かってるけど……」
みんなの理想と願望を、今の僕が叶えられる気がしない。
琴子「…誰に望まれたからとか、誰に託されたからとか、どんな理由があれ、貴方が役者を続けていく意味なんてあなたが決めるものよ。
変えたっていいの。変わったっていいの。あなたのやりたいことを声に出しなさい。私が、私たちが、支えていくから」
「………うん」
曖昧な返事をすると琴子さんがカバンの中からファイルを取り出した。
琴子「これ」
「……これって……」
琴子「次や明日じゃなく、未来を望むならいきなさい」
「…未来を……」
43人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ななき。(プロフ) - かなとさん» ご指摘ありがとうございます。 (2019年7月19日 20時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - オリジナルフラグをお外し下さい (2019年7月19日 20時) (レス) id: 54cfb5026c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななき。 | 作成日時:2019年7月19日 20時