パジャマ越しの体温 ページ48
深夜の静かな部屋に、男の子にしては少し高い声がタバコの煙のように浮かぶ。彼は隣でどんな表情で寝ているんだろうか。
セ「『3ヶ月付き合って、ダメなら諦めます。クリスマスまで(仮)の彼氏にしてください』って頼んだんですよね。もうこっぴどく振られる覚悟で。
だけどAさんはやっと『いいよ』って言ってくれた。『クリスマスまでね』って笑ってくれた……」
サイドテーブルの上で揺れるシェードランプのように、センラの声は震えている。本当に勇気を出して言ってくれたんだろう。
この世界の私はどんな気持ちで頷いたのかな。どんなことを考えていたのかな。期待させるようなことをして、もしかして本当は好きだったりしたのかな。
………ごめんね、覚えてなくて。
セ「………Aさん」
「ん？」
セ「ギュッてしてもい…？」
「あー……」
セ「それ以上はしません！約束します…！だから……っ…」
消え入りそうな、懇願するような、小さな小さなつぶやき。守らなきゃ。私が助けてあげなきゃ。……なんて普通の女の子なら思うんだろうな。
「…………まあ、今日寒いしね」
セ「いいんですか…？！」
「寒いからね、しょうがない」
セ「…やっぱり冬万歳ですね。センラは今日から冬がすきになりました」
「そーかい」
パジャマ越しに触れ合う肌と肌。体温がじんわりと伝わってくる。
「………センラ、うるさい」
セ「しょうがないやないですか、好きな人と抱き合ってるんですから。そりゃあ心臓も悲鳴をあげますって……」
私はずるいことをしてる。センラの気持ちを利用して生き長らえようとしてる。よくないことだ。よくないことなのに、突き飛ばしたりできない。踏み込ませようとしないくせに、お願いは叶えてあげるなんて。
後悔を繰り返すことが成長じゃないって、そんなの分かりきってることなのに。繰り返すな馬鹿野郎。文字通り身をもって体感しただろ。
セ「Aさん、もう寝はりました…？」
「………」
セ「おやすみなさい、Aさん……」
私が寂しがり屋で怖がりな彼にできることはなんだろう。
私が今するべきことは、もう分かってるよな、なぁ？
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年1月8日 21時
