甘えたがりの後輩 ページ46
▪▪▪
「おいセンラ、センラくーん？重いよ〜」
セ「それはセンラのことですかぁ」
「それ以外に何があるんだよ。肩が折れるって。あぁあぁ……」
セ「んー、じゃあこれはー？ふふぁ、ひざまくらぁ〜」
「センラ、さては酔ってるな？」
セ「えぇ〜、センラは酔ってませんよぉー」
「酔っぱらいはみんなそういうんだよ。ほらもう寝よう。明日も大学あるし」
セ「いややぁ〜、もっとぉ〜」
「子供か！………はぁ、重い…」
セ「じゃあ膝枕やめるから、一緒に寝てくれます…？」
「え、……いや、それはちょっと」
セ「……やっぱだめですよね」
「いや、その、嫌とかじゃないよ？ただその……」
セ「実は最近怖い夢ばかり見るんです……」
「夢？」
テレビから顔を下に向けて太ももの上に寝転んだセンラを見る。ウイスキーのように輝き、イエロートパーズのように煌めき、はちみつのようにとろんと溶けている瞳。憂いの中に私がぼんやりと浮かんでいる。
セ「なんか大きな黒いものが世界を飲み込んで、日本を飲み込んで、どんどんどんどんどん近ずいてきて、しだいにセンラを飲み込んでいくんです。どんどんどんどん迫ってくるのが怖くて怖くて逃げるんやけど、いっつも最後は飲み込まれて……」
「せ、センラ？どうして泣くの…？！」
セ「センラ、ひとりはいやや…。ひとりになりたくない……」
ポロポロと涙をこぼすセンラは小さな男の子みたいで、震える指で必死に私の服を握っている。
「センラ……」
セ「Aさんは、Aさんだけは、ひとりにせんといて…？」
なのに酒のせいで火照った肌も、潤んだ瞳も、吐息混じりの声も、中学校の時とは比べ物にならないほど色っぽい。思わずどきりと胸が鳴る。
誤魔化すように小さく咳払いをして、それから髪を撫でた。指の隙間からさらさらと髪が流れる。
「………はぁ、今日だけだよ？」
セ「ほんと…？」
「泣く子のお願いを黙って見捨てるほど人間腐ってないからね」
セ「……ありがとぉ、Aさん」
「どーいたしまして」
仕方ない後輩くんだ、まったく。
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年1月8日 21時
