湯気の立たない紅茶 ページ36
でもどうしたらいい……。
残機がどれだけか分かってない中でヒントもなしに動き回って色んなことを試したりなんてしたら、ぎろちんの紐を自分でゆるめているようなものだ。
だけど保険に入って一向に進まないまま別の子にでも取られるようなことが万一にでもあったなら、可能性は一気に減る。効率なんて考え出したら判定が怖いし………。
？「随分と苦悶しているようですね。クロネコ特性の紅茶でも飲んでいきます？」
「………いや、いいです」
なんか入ってそうだし怖くて飲めやしない……ってかその被り物つけてどうやって飲んでんの…？
？「では次のステージへ進みましょうか。左手をご覧ください」
さっきとは逆方向の壁を見る。
そこにはレモンイエローの縁の鏡が立てかけてあった。彫られているのは男性のアクセサリーでよく見る形。……たしか、百合の……なんだっただろうか。
改めて反対側を向くと、紫の鏡は赤い鏡と同様白く濁っていた。また口の中に血を感じる。知らず知らずのうちに唇を噛んでいたようだ。
？「怖気付けづきましたか？」
「………いまさらです」
？「あはは、では頑張ってくださいね」
レモンイエローの鏡の前に立つ。今度こそ。今度こそハッピーエンドだ。どこかにいるヒーローを必ず探して、私がヒロインであるはずの世界にしてみせる。
？「きっと大丈夫ですよ。三度目の正直って言いますし」
思わず隣に立って鏡の方を向いてるクロネコさんを見た。バカにした声でも単調な声でもない。いや、色はないけど少しだけ、ほんのりと優しさがあるようなトーン。心配？励まし？
……いやいやなわけがない。彼は誘拐犯であり私の苦しむ反応を見て楽しんでる変人だ。さっさとクリアして絶対に正体を暴いてやる。
「………えぇ、そうですね」
？「いってらっしゃいませ」
針金で無理やりつるように口角を上げる。ホラー映画の人形とかだったらギギギと音が鳴るところだ。
鏡に指をつける。しだいに波紋が広がりやがて吸い込まれる。またあれが来る。息を止めた。
？「君のあるべき姿に………愛しい彼を信じて」
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年1月8日 21時
