ゲートの入口 ページ3
？「さあ、ゲームの入口はあちらです」
クロネコさんが指さす方に恐る恐る視線をずらす。
大きな大きな立ち鏡。周りは赤色の木で縁取られ、花の彫刻が施されてある。これは…桜？
「………おりるといったら？」
？「別に構いませんよ。今までにも何人か、そういう方もございました」
「なら……」
？「その方たちは永遠にこのトコワカをさまよっていらっしゃいますがね。ほぉら、先程から聞こえませんか？誰かの唸り声、壁を叩きガリガリと引っ掻く音、『だして』『だして！』『ここからだしてぇ…ッ！』」
「…？！」
さっきまではなにも聞こえていなかったはずのに、囲まれるように壁を叩かれている。そこで気づいた。この部屋には扉がない。だとしたら私はどこからここに来たんだ…？思わず身震いをする。
？「是非とも貴方には参加していただきたい。クリアしたあかつきには、最高のハッピーエンドをご用意致しますよ」
「はっぴー………」
この怪しい男は一体何者だろう。私を誘拐した犯人。愉快犯の可能性もある。怨恨に覚えはないが、もしかしたら誰かに頼まれたのかも。そもそも目的が分からない。
クロネコさんの言う通りに進めば死ぬかもしれない。
でも降りれば、ここにずっと居なくちゃいけない。
選択肢はあってないようなものだ。選ぶという行為はあっても、そのどちらにも助かる補償は無いに等しい。
どちらを選んでも逃げ道は無いかもしれない。だったら少しでもその時間を伸ばす方に尽力するしかあるまい。
「……い、ぃぃい…、いきます」
？「あぁ、よかった。ではこちらへ」
私の手を引き鏡の前に連れていくクロネコさん。手には真っ黒な綿手袋がはめられている。手どころか被り物以外全身黒い服。闇に溶け込みそうなほどの身なりで、まるで喪服みたいだ。
？「手を伸ばして、そのまま飛び込めばゲームスタートです」
震える手をゆっくりと持ち上げ鏡の前に出す。近くで見ると桜の彫刻だと分かった。
？「Aさん」
「わかってますよ……」
人差し指が鏡に触れると、とたんに波紋をおこすように波打った。
「…っ！」
？「さあ、怖がらずにいってらっしゃい」
もう一度指をつける。これから腕、肩……目をつぶり、勢いよく身を乗り出した。
？「君のあるべき姿に………愛しい彼を信じて」
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年1月8日 21時
