ワンダーリエンド・ビーハピー【歌い手】 (ページ18)

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口の端から零れる泡ページ18

岩にあっくんを乗せる。するとあっくんが一点を指さした。

少年「あ！ぼくのボウシ！」

「帽子？大切なもの？」

少年「あのむぎわらぼうし、おとうさんのカタミなんだ……」

「………わかった。お姉ちゃんが取ってくるから。ほら、ここにいるんだよ」

少年「でも…波が！」

「だいじょうぶ。すぐ戻ってくるからね」

沖よりだいぶ波が高い。気をつけなきゃ飲み込まれそうだ。一瞬でも気を抜いちゃいけない。でもいつもよりすぐに疲れてしまう。体力が落ちてるのか。

(もう、少し……あと、ちょっと……っ……よしっ！)

「いくよ！」

麦わら帽子をフリスビーの要領で少年に投げる。少年は岩に捕まりながらも上手くキャッチした。

「じょうず！そのまま岩に捕まってて！」

少年「わかった！ありがと！！」

(このままあの岩に戻って救助隊が来るまで待てば………っ！)

大きな波。覆い被さるような重い重い水。打ち付けるような海の塊。

少年「おねぇ……ちゃん…？」

麦わら帽子を抱きしめる少年が視界の端に見え、その後は真っ暗な海の中。自分の口からいくつも泡が出ていくのが見える。二酸化炭素にまとう海水。音はボコボコと抜けていく。

(あー、これはもう、ダメでしょ……)

だんだん塩水が沁みて上手く目を開けられなくなってきた。ここまで全力で泳いだせいで体力も底を尽きた。どうやらゲームオーバーのようだ。

(死なないの、当面の目標だったのになぁ……)

最初は中学とか、知らない人といきなり付き合ってるとか、戸惑ったし不安だったけど、坂田くんの笑顔に何度も励まされた。

せっかく坂田くんと本音で話せそうだったのに。夏休みの計画もたくさん立ててたのに。好きって気持ち、やっと分かりそうだったのに。

でもおしまい。ここで終了。

ありがとう。ごめんね。ありがとう………。

坂「Aちゃん…っ…！！！」

坂田くんが私を呼ぶ声がした。いつもは優しげで暖かいあの声を枯らすくらい張り上げて。

気のせいだろうか。

……あぁ、苦しい。もういっそ、早く………。