言い訳のセリフ ページ17
私が取りこぼしたミスをちゃんと拾い上げて、スルーしないで持っていた。優しさだろう。ちゃんと私を見てくれている証拠だろう。最近様子のおかしい彼女を気にかける優しい彼氏。
私がこの世界の私なら、うんん、普通の女の子なら、きっと頬を染めて喜んでいたことだろう。
でも私の内心はそれどころではなかった。心臓から汗が出そうなほど焦って、思考がフル回転されている。
(と、とにかくなにか上手い言い訳をしないと。早くセリフを。もしもの時のために書いたじゃんか…早く……)
「………えっと…」
坂「誤魔化さんでええよ。なんか事情があるんやろ？」
目じりを下げて優しく笑う坂田くん。いつものように笑ってるのにどこか悲しげで、苦しい。
坂「だけど話してくれるとうれしいな。オレが好きな君のことやからちゃんと話し合おう。……あ、オレにも理解できるように話してな？ほらオレ、あほやから」
「………わ、わたしは……私、は………」
思わず視線を逸らす。相変わらず海は眩しく光る。
「………え？」
坂「どうしたん？」
「あれ、人じゃない……？」
坂「えっ、………ほんまや。光で見えにくいけど、小さな男の子…？」
「……坂田くん！早く監視員さん呼んできて！」
坂「わかった！…って、Aちゃん？！どこいくん？！」
「助けてくる！」
坂「えぇ？！あの距離はさすがに女の子には……！」
「大丈夫、私スイミング習ってたから！」
坂「だからそれは……っておい！」
思わず走り出す。
大丈夫だ。この距離ならまだ間に合う。それより男の子の方が心配だ。子供なら体力はそんなにないし、見たところ掴まれるものもない。
急がなきゃ、急がなきゃ、早く早く早く……。
昔にも、こうやって誰かのために海を泳いだことがあった。必死に手と足を動かして、喉の奥にどんどん水が入って、目も海水で痛くて、それでも急げ急げって。
「はっ、はっ、はっ……やっぱり、あっくんだった……」
少年「お、おね、おねぇちゃん…！たす、たすけ、助けてっ……」
「大丈夫。おねぇちゃんがいるから。ほら捕まって」
少年「おねぇちゃん！おねぇちゃん！」
「大丈夫だから、ね？ほら落ち着いて？ほらあそこの岩まで…」
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年1月8日 21時
