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勢い良く振り向くと、そこに立っていたのは異形の猿。腕が異様に長い。
先程の轟音は、こいつが木から飛び降りた音だったのだろう。墓は倒れ、地面は凹み、土埃が立っている。
呪霊は首と腕をぐるぐると回しながら奇声を発している。
どう見ても3級どころじゃない。
1級か特級だ。
逃げなければ。
手に負えない敵と遭遇したら、一旦逃げて補助監督さんに報告。その後、補助監督さんが呪霊に見合った術師を要請し、祓ってもらうという流れだ。
日頃から特級に会敵したら逃げるか死ぬかだと言われている。
当然おれはまだ死にたくない。
帰って悠仁におかえり!って言ってもらうんだ。
視界の中心に呪霊を置きながら、ゆっくり後退りする。
こちらを攻撃する予備動作がないことを確かめて走り出そうとしたその時。
呪霊がずっと回していた頭と腕を止めた。おれではない方を見ている。そして顔の方向に体も向ける。
何があるのかと視線を移し、おれは絶句した。
そこには女性と小さな女の子がいたのだ。
女の子はまだ幼稚園にも行っていない歳だろう。お母さんらしき女性もかなり若く見える。
2人は震えながら抱き合っていた。
墓の影から出てきたところを見つかったのか。
呪霊が彼女らをターゲットにしたことは明白だった。
倒さなければという覚悟と緊張が体を駆け巡る。
こんな格上の相手に使ったことは無いからどうなるかは分からないが、助けるしかない。呪霊が意味のある言葉を喋る様子はないからそこまで上のやつじゃないだろう。恐らく死にはしない。そう思いたい。
おれの術式の良いところは、指定した相手を必ず消せることだ。必ずは言い過ぎかもしれない。何にでも例外はある。特級の中でも強い奴らは死なないだろう。
賭けではあるが、おれは口を開いた。
『
刹那、体内が掻き回されるような激痛が走る。喉に何かがせり上がってきて、口から吐き出すと、それは血だった。
痛みに耐えられず、地面に倒れ伏す。
吐血なんてしたの初めてだなぁなんて状況にそぐわないことを考えた。これは現実逃避だろう。
呪霊が消えたのを最後に見て、おれの意識は沈んでいった。
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作者名:月裏 餅 | 作成日時:2022年3月3日 13時