【文スト】●依頼人だったんですけど●【太宰治】

〈5〉勧誘 ページ5

「おはよう。シャボン玉は現れないようだね。」


『そうですね。』


包帯が巻かれているのが気になるけど、絶対に聞かない。


面倒なことになりそうだから。


「なかなか現れてくれませんね。」


『頼んでおいて申し訳ないです、中島さん。』


「いえいえ！名瀬さんのせいじゃないですから。」


今日は中島さんと太宰さんが家の近辺を一緒に歩いてくれる。


シャボン玉は現れない。


「天気も良いし、いい川もある。Aちゃん、心中しないかい？」


『訳が分かりません。』


なんだ、心中って。


私はまだソッチに逝きたくない。


「すみません名瀬さん。太宰さんの趣味なので気にしないで下さい。」


『はい。・・・はい！？』


趣味って心中が？それって趣味って言うの？


「他に良く行く場所はありますか？」


いつものことなんだろうな。


中島さんは気にした様子もなく聞いてきた。


『特に最近は。仕事も無くなったので。』


「Aちゃんて社会人？」


『短大を出て小さな会社で事務をしていました。3週間前に倒産して仕事がなくなりました。』


まさか倒産するとは。


仕事探しもしないといけないけれど、シャボン玉が仕事先に現れたら困るから原因を知りたい。


「大変ですね。」


『仕事はまた探せばいいだけですから。』


「うーん・・・Aちゃん、事務の仕事探してるの？」


何かを考えているような太宰さん。


『働ければなんでも。』


特にやりたい仕事がある訳でもない。


「じゃあウチで事務やらない？」


『・・・え？』


「太宰さん、また国木田さんに怒られますよ。」


ウチって武装探偵社の？


『私は異能力なんて持ってませんよ？』


異能力集団の会社で働くなんて一般人の私には無理でしょ。


異能力なんて見たことすら無いけど。


噂で聞いたことがある。


「事務員は異能力者はいないから安心し給え。」


そうなんだぁ。


「というわけで、社に戻ろう！」


『わっ！』


「だ、太宰さん！」


腕を引かれながら、慌てて後ろから走ってくる中島さんを見る。


え。


シャボン玉の件は？


仕事の話は本気？


これは中島さん、いつも苦労してそう。






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