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6話 ページ6

お気付きの方もいるだろうか。





私は、桜だ。






でも元々は違う。
私は元々、人間だった。

芳乃(よしの)Aという名の。






何年も前の春、二十代もあと数年で終わるという歳に私は不治の病を患った。





病に倒れ、屋敷で寝たきり、
あとは寿命を遂げるのを待つだけの生活だったが、
そんな中でも唯一の楽しみがあった。






天気の良い日は障子をあけて、
庭のソメイヨシノを見るのだ。







勿論、寝たきりの私に障子を開けるなんて事出来ない。
障子を開けるのは、いつも彼の役目だった。





彼は私の大切な人だった。
彼はいつ死んでもおかしくない私を献身的に支えてくれた。


そんな彼と一緒に庭の桜を見るのが好きだった。


身寄りのない私は、
息を引き取った後入る墓もなかった。
子孫がいる訳でもあるまいし、新しく作るくらいなら、と命が消えかかる中、彼に遺言を遺した。


『私が死んだら、大好きなあの桜の木の下に眠らせて欲しい。あの桜を目印に待ってるから長生きしてね。』

と。


彼は震えながら大きく頷いた。
その様子に満足した後、私は寿命を遂げた。





その後約束通り彼は、私をあの桜の木の下に眠らせてくれたらしい。




私のあの桜の木への想いが強すぎたのか、
桜の木は私の魂を吸い上げ、
気づいたら私は桜そのものになっていた。





あれから数年が経ち、
屋敷は取り壊され、街の様子も変わった。
この桜の木だけは彼が護り抜いてくれて、
今も変わらずに地に根を張っている。




いつの間にか周りには桜の木が沢山並ぶようになり、
ここは花見の名所となった。





その一つ一つに待ち人を待つ魂が宿っている。






先程孫を見送ったこの老人もまた、
桜になった人だった。

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作者名:月神ハク | 作成日時:2021年4月8日 3時

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