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「………すみませーん、誰かいますかー？」
『オイオイ、どこの国の言葉だいそりゃ』
『あっ、すみません！日本語なんです。それより、ノートとかってどこで買えますか？』
使えるうちに使っておきたくて、わざと日本語を挟む。食堂のあと事務室に寄った。
事務室にはおじさんが一人居て、タバコを吸っていた。その人に売店の道を教えてもらい、ノートとペン買って、再び部屋へ戻る。
「……ふーう」
ひと息ついて、落ち着いた。
まずは整理する。
「………もしかして、昔の事って忘れていく？」
信じられないが、これについては信じるしかないみたい。
現に、さっきまで自分の名前も分からなかった。なにより、【REBORNの世界】という自覚が消えていた。
「…もし、今日の夕食が和食以外なら……」
考えただけでゾッとする。
思い出している自身がない。これは確信だ。
だから和食が出たのはある奇跡に近い。
まず私はノートにペンを走らせた。
昔の私のこと。
名前、住所、通ってた高校、電話番号、血液型、星座、好きなこと、嫌いなこと、好みのタイプ、趣味
思いつく限りの、自分の個人情報を写した。
今まで忘れてたのが嘘みたいに、とめどなく思い出せている。安心。
しかし、ひとつだけ思い出せないことがあった。
それは家族だ。
母がいた、父がいた、きょうだい……姉？妹？兄？が一人いたのは分かる、でもそれ以上がない。
存在だけで、思い出も顔も、穴が開いたみたいに奪われていた。
「……夢で殺したから？」
研究所で見た、あの物騒な夢がまざまざと蘇る。
あれは家族を忘れるって暗示だったのか。
「でも、その法則でいくと、私は自分も刺してる」
それなら自分のことも忘れているはず。
なのに、ツラツラ出てくるのはなんでだろう。
「思い出すきっかけがあれば……大丈夫なのかな」
確かに私の好物は味噌汁。
味噌汁を食べない日はなかった。だから忘れても忘れられないんだろう、匂いも味も。
【きっかけがあれば、思い出す】と、記した。
昔の事は、この1文で一旦区切る。
次は【REBORNの原作】の内容だった。
さすがに細かい身長体重の設定は覚えていない。まず知らない。
けれど、物語のあらすじや、展開の黒幕はだいたい忘れてはいなかった。
キャラクターも展開順に並べて書いている、完璧だ。
これで、モヤモヤもスッキリした。
ピアニストは多分、獄寺隼人。
憤怒の炎も、ボンゴレ二代目とザンザス特有のモノだと分かる。
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作者名：杞憂 | 作成日時：2015年8月20日 22時
