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しん、部屋が骸のひと言で静かになった。
あーだこうだと、3人の熱がこもっていた骸の議論に、ピシャリと冷水がかけられたように。いや、正しくは冷水ではなかった。その熱を冷ましたのは、むしろぬるい塩水だった。
音もないその塩水が、ポタリポタリ彼女のスカートに重なって、溶けた。
その姿に、情けなくも男たちはギョッとして、どうしようもなく怯むしかなかった。
だからより、自然と、骸が喋る声が通るようになったわけだ。
『どうして、』
ただでさえ予想もしなかった事実に混乱している。だが、骸は思い出してしまっていた。追い討ちをかけるように。
家族なんだ、大事な。
今なら別の解釈ができる、ランチアの言葉。
『どうして早く教えてくれなかったんですか』
『………そ、れは』
『邪魔だったんでしょう？私が、面倒だったんでしょう？』
『む、骸……落ち着いてくれ』
ランチアがはっきりしないのは、スクアーロと同じく、女の涙にたじろいているだけである。
しかし骸にとって、その曖昧な返答は、図星であると言っているようにしか聞こえなかった。
『そりゃ、ボスの命令は絶対ですもんね。
小娘ひとり面倒見るのも義務、でしょう。渋々対処して、処理して。警戒心を解くために、わざわざ家族だ、大切だ、と甘やかす、そういうことだったんでしょう』
自分のことをただの腫れ物扱いされていたことに、今さら気づいた。そう骸は痛感していた。
そして後悔する。
『家族』とランチアに呼んでもらえたことを、少しでも喜んでいたなんて。真に受けたのは自分だけだった。
『……そんなはず、ないだろう』
『《提案》を聞かされた今、信じられるわけないでしょ。』
ランチアはようやく、骸の目をまっすぐ見る。
『違う、提案とは名前だけで、ほとんどオレがやりたくてやったことだ。ボスの命令は関係ない』
『それならますます意味がわかりません。
初対面の孤児のスリ犯にどうして最初から思い入れがあったんですか。ひょっとして元神父だったりするんですか。善意の溢れた。』
『………』
皮肉をこめた骸は、嘲笑もぎこちなかった。涙でヒクつく。
『いや、オレは元孤児だ』
控えめに、落ちる前の涙を掬った。『スリ犯とは違って、正々堂々倒してから、奪っていたがな』と笑う。
それはカツアゲでは。
そして正々堂々の意味を間違えてるよね
骸はそれを追求せず胸にしまった。
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作者名：杞憂 | 作成日時：2015年8月20日 22時
