【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ31)

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Ⅲ ページ31

昨日は試合の時間を間違えて把握してしまったようだ。
それから直ぐにあの観戦部屋に戻ったが、違う人達の試合が始まっていた。

いつものようにAさんは負けたのだろうか。
それとも見事に有言実行して見せたのだろうか。

もしもAさんが勝っていたら、その勝ち誇った姿を目に焼き付けられなかったという後悔や、もう毎日僕に手紙を渡してくれる日々がなくなってしまうという不安が、あくまでも虚構の話だというのに、溢れだしてきてどうしようと無くなる。

もやっとした気持ちは次の日の朝まで続いた。

だけど、きっとまたAさんは果たし状を持って、僕の元にやってくるだろう。
そう思うと少しモヤも薄くなった。
いつも以上にその手紙に期待した。

だけど、いつもの時間になってもAさんは現れなかった。

重い頭を胴に乗っけながらフラフラと宛もなく廊下を歩いていると、丁度食堂へ続く扉から出てきたウィラさんとフィオナさんの会話が耳に飛び込んできた。

「ねえ、エマから聞いたんだけど、A、ルキノに勝ったらしいわよ」
「ええー！あの毎日してんのに全戦全敗の試合で？そりゃおめでたい」
「エマが言うには、前半にもう既に一撃食らってて負けそうだったらしいわよ」
「そっから120秒チェイス！？私も頑張らなきゃな〜」

Aさんが……勝った！？
エマさんがあの後観戦をしていたと考えると辻褄が合う。
Aさんが来ない事にも納得いく。

好きな人の勝利。喜ぶべきなんだろうけれど、素直に喜べなかった。
これで毎日の決闘がなくなるから、僕との関係も終わる。
色んな感情が混じっていっぱいの頭をフラつかせながら、自室に戻った。

自室の扉の前、目の前の光景に僕は目を疑った。

何で……Aさん、貴女が此処にいるの？