道具 ページ6
夢を、見た。
思い出したくない記憶。見たくない。早く、早く覚めてくれ。
｢いいか。お前は人ではない。お前は＿｣
やめろ。言うな。違う。俺は。
＿俺達の"道具"なんだよ＿
｢＿っ！｣
ガバッと布団を剥ぐ。身体中汗をかいていて気持ち悪い。嫌な夢を見てしまった。思い出したくなかったのに。この記憶は、身体が焼かれた時の事より思い出したくなかった。思い出すと、俺が、俺でなくなってしまうから。
｢…道具、そうだ。俺は、人ではなくて…｣
グルグル。頭の中に黒い靄が渦巻く。
｢…ただの、動く人形…？｣
グルグルグル。その靄はどんどん頭の中を蝕んでいく。
｢あぁ、そうか、おれは…｣
グルグルグルグル。そして靄は完全に＿
｢＿動く、人形なのか＿｣
＿頭を、支配した。＿
グルグル。グルグル。黒い靄は更に濃く、深く、頭を支配していく。
目の前に何かが見えた。
"それ"は、こちらに近づいていくにつれてハッキリと見えた。その姿は、
｢そうだ。お前は動く人形、道具なんだよ。｣
＿俺の、父親だ。＿
ついて来い。と言うと父上は部屋の外に出た。それに続いて俺も部屋を出る。
靴も履かずに、父上についていく。向かった先は、崖だった。父上は崖までいくとピタリと止まった。
｢ここから落ちなさい。落ちたら、お前を人として接してやる。そして、菱川家の息子だ、と世間に公にしよう。｣
さぁ、と父上は崖を指さす。俺は無意識にゆっくり、ゆっくりと崖に近づいた。
下には水が流れている。水の音が、崖に近づくにつれて大きくなっていく。そして、あと数歩で下に落ちる。これで、俺は、人として認識されるんだ。と思うと、笑みが浮かんだ。あと1歩。踏み出そうとした時だった。
｢＿っ伊吹君！！｣
グイッと手を引かれ、そのまま尻餅をつく。どうして。あと1歩。あと1歩踏み出せば菱川家の息子だと認識されるのに。どうして、どうして＿？
｢伊吹君！僕だよ、シャープだよ…！｣
何か。声が聞こえる。でも、何を言ってるのか分からない。父上…？父上が喋ってらっしゃるのか…？
｢伊吹は見つかったのかい…!?｣
｢っどうやら大丈夫のようじゃな…！｣
｢なんでこんな崖になんか…！｣
複数人の声が聞こえる…。あれ、俺は、この声、聞いたことが、ある…？
そこで、黒い靄が薄れていった。だんだんとはっきりしてきた。そうだ、この声は、いつも聞いているじゃないか。
｢＿っ皆、か…？｣
ハッとした。そうだ、父上は…!?
辺りを見渡すが父上の姿がない。
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作者名：椿 | 作成日時：2018年6月5日 19時
