其ノ参拾壱 ページ34
次の日、神里様は社奉行の家臣を大勢連れて我が家にやってきた。
そしてその人たちが荷物を持って家から出てくるものだから近所で少し話題になった。
志倉家のやらかしとかを疑われたけれど、それなら来るのは社奉行ではなく天領奉行だろう。
部屋にある娯楽小説は流石に量が多すぎるからちゃんと仕分けをしたのに神里様に全て持って行って良いと言われ、拒否する暇もないまま全て運ばれてしまった。
何だか甘やかされすぎな気がする。
「Aさん。荷物はこれで全部ですよね?神里家へ向かいましょう」
神里様の問いかけにすっかり私の部屋の物はなくなってしまい、私の昨日の仕分けは全く意味がなかったなと心の中で苦笑しながら答える。
「はい、ありがとうございます」
社奉行の行列の後ろを歩く神里様と私。
当然道行く人は興味を持つ。
すれ違う度に何かヒソヒソと話されている気がして肩に力が入ってしまう。
神里様の隣に女が居たらその関係に察しはつくだろうし、やっぱり釣り合わないとかそんなふうに思われているのだろうか。
「Aさん、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫ですよ。もう少しすればAさんは私の妻として人々に知られるでしょうし」
神里様は私の思考を読んだかのようにそう言った。
「私、そんなに有名になってしまうんですか…!?」
「まあこれから何か社奉行の仕事を頼むことはあるでしょうからねえ」
慌てふためく私を少しからかうように笑う。
そんな話をしているとあっという間に神里家へ到着してしまった。
恐らくこれから私の部屋になるであろう部屋には既に荷物が運び込まれていた。
「今日は部屋の片付けが終わった後Aさんの歓迎鍋遊びをする予定なので楽しみにしていてくださいね」
沢山の荷物が置かれているだけの部屋の前で神里様は何だか楽しそうに言った。
「鍋遊び、ですか?」
鍋だから食事をするんだろうけれど、初めて聞く言葉だ。
「ええ。お互いがお互いにバレないように食材を入れて鍋を作り、それを食べて何が入っているか当てるんです。神里家ではたまにやるんですよ」
「なんでも入れていいんですか?」
「鍋に入る定番食材でも、甘味でも、珍しい食材でも、食べられるものならなんでもいいですよ」
鍋に甘味…!?
「そんな相性もなにも考えられていない鍋、美味しいんですか…?」
震えながら言う私に神里様は笑う。
「さあどうでしょう?食材、考えておいてくださいね」
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椿(プロフ) - ありがとうございます〜!更新頑張ります! (8月6日 14時) (レス) id: bc50e09104 (このIDを非表示/違反報告)
夜空ゆーたお(プロフ) - 続き楽しみです! (8月5日 1時) (レス) @page20 id: 9a1d60d013 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2023年7月16日 19時