其ノ拾肆 ページ16
話し終えるとお母様のことを思い出し辛くなって下を向く。
「…話してくれてありがとうございます。Aさんは、とても優しい方ですね」
神里様は優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
「ちょっ…!?」
いきなり頭を撫でられ、驚きと照れが隠せなかった。
「両親の喧嘩も離婚も全てが自分のせいだと抱え込む必要はないんですよ」
神里様は優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でながら言う。
「今まで辛いことが沢山あったでしょうが、それでもお母様の言うことを守り、やりたいことを諦めず貫いてきた。Aさんはとても強い人です」
神里様の優しい微笑みと頭に置かれた暖かい手はお母様を彷彿とさせた。
「あ……」
私の頬には一筋の涙が伝っていた。
「ご、ごめんなさい…!」
焦って涙を拭うと神里様は私を抱き寄せ、誰にも見えないようにと木の陰に隠れた。
「良いんですよ、泣いても。誰も見ていませんから」
神里様はそれ以降口を開かず、優しく私の頭を撫でていた。
神里様の腕の中にいるこの状態はとても恥ずかしかったけれど、涙が溢れて止まらなかった。
こんなに泣いたのはいつぶりだろうと思いながら私は声をあげて泣いた。
それからどれくらい経っただろうか。
「落ち着きましたか?」
神里様が優しく声を掛けてくれる。
「はい…。すみません。みっともない所をお見せしました」
散々泣いて目も鼻も真っ赤になってしまった。
「こんな状態じゃ家に帰れませんね…。あっ神里様こんな長くここに居て公務は大丈夫ですか!?すみません長く拘束してしまって!」
神里様は息抜きの時間にここへ来ているだけなのだ。
でも今日は私が泣いてしまったせいでかなり長居させてしまった。
「そうですね、まあ大丈夫でしょう。そろそろ帰って公務をしないといけませんけどね」
なんか…すごく楽観的。
「そうですよね、では私はこれで失礼します。本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてその場を離れようとする。
「家に帰れないのにどこへ行くんですか?」
腕を掴まれ真っ直ぐ見つめられる。
「ええっと、八重堂にでも行こうかなと…」
目を逸らして答える。
「おや、娯楽小説がお好きなのですか?」
「お母様が好きだったのでその影響で…」
お母様にはよく八重堂に連れていかれたものだ。
「ふふ、そうなんですね。では行ってらっしゃい」
神里様に見送られて私は八重堂へ向かった。
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椿(プロフ) - ありがとうございます〜!更新頑張ります! (8月6日 14時) (レス) id: bc50e09104 (このIDを非表示/違反報告)
夜空ゆーたお(プロフ) - 続き楽しみです! (8月5日 1時) (レス) @page20 id: 9a1d60d013 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2023年7月16日 19時