優しいマジックショー ページ9
彼は部屋に入ってきたかと思えば、手元にハンカチを被せてカウントダウンを始めた。
「3、2、1……!」
ポンと音を立たかと思えば、彼の手には一輪の花が現れていた。
「な、何……?」
「ふふっ、驚いた顔も素敵だ。この花は貴方に差し上げます。」
「え、あ、ありがとう……。」
戸惑いながらもその花を受け取ると、キッドはまた楽しそうに笑った。
「……そんなに面白いですか?私、もしかして変な顔してます?」
キッドはいえいえ、と呟いてまた笑った。
「違いますよ。コロコロと表情を変える貴方が可愛らしいと思っただけです。」
「はぁ……、そうですか。」
「ええ。……あ、そうだ。せっかくですし、私と共に今宵の空を巡る旅に出ませんか?もちろん、貴方の安全は保証いたしますよ。」
私は行くなんて一言も言っていないのに、命綱を体に固定されて横抱きにされた。
「では、行きますよ!」
「ねぇ、ちょっと!待って無理!いや!怖いってばぁぁ!!」
私の言葉も聞かずに、彼はベランダから飛び降りた。私の部屋はそこそこ上の階だから、普通に落ちたら確実に死ぬ。けど、少し自由落下したかと思えばハンググライダーが風を受け、ふわりと宙に浮いた。
「……どうですか、初めての夜間飛行は?」
「死ぬかと思いましたよ……。確かに風が心地良いですけど。」
「ふふっ、ご満足いただけたようでなによりです。……このまま飛ばしますよ!」
そう言って、しばらくの間夜景を見ながら空を飛び回っていた。キッドは時々話を振ってくれたが、どんなに話題に困っても何があったのかだけは聞いてこなかった。
「……だそうですよ。流石にAお嬢様も、この話はご存知でしたかね?」
「……あの、また私の勝手な想像かもしれないんですけど、私には貴方が優しい人に見えます。なのに、どうして怪盗なんてやってるんですか?今だって、こうして私の気を紛らわそうとしてくれて……」
すると、彼の人差し指が唇に当てられた。口では言わないが、彼の目がもう喋るなと言っているようで、言葉が出てこなかった。
「……察しが良くて助かります。このような話、美しい景色には似合いませんから。」
「じゃあ、この景色に合う話って何ですか。」
「んー、そうですね。例えば、貴方の恋煩いの話なんてどうです?貴方に話す気があれば、ですけどね。」
キッドはにこりと笑い、私を試すように見てきた。まるで、私が家に入れる時に迷っていたことを知っているような顔で。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (4月27日 22時) (レス) id: de2c41cb59 (このIDを非表示/違反報告)
天然石 - 続き書いて (2021年11月11日 19時) (レス) @page30 id: 9e1c69280d (このIDを非表示/違反報告)
焼きプリン - とても面白くて今日一気見しました!!!続きがとても気になります!楽しみにしてます。頑張ってください! (2021年3月25日 20時) (レス) id: ecb566eb91 (このIDを非表示/違反報告)
す だ(プロフ) - 頑張ってください!たのしみにしてます (2020年7月14日 2時) (レス) id: ebbf33f874 (このIDを非表示/違反報告)
月乃(プロフ) - 花束さん» ありがとうございます!そう言っていただけると励みになります!頑張ります! (2020年4月24日 12時) (レス) id: 34cc67c93b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月乃 | 作成日時:2019年10月6日 18時