第1音楽室には幽霊が出るらしい。 (ページ10)

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吹奏楽部と×××××＿9 ページ10

俺が渡瀬と遭遇してから1ヶ月程経ったある日。

あれから、俺は週に2日程度
第1音楽室へと足を運ぶようになっていた。

その日も放課後に彼奴のピアノを聴きに行くつもりだった。

「あれ、新崎...お前まだ帰らないのか？」

不意に、谷口に声をかけられた。

「部長だし...鍵の始末しないと」

谷口とは同じクラス、同じパートでかなり仲がいいのだが、
最近遅くまで残ることに違和感を感じているようだ。

「...実は」

隠す意味もないので、俺は渡瀬のことを説明した。

第1音楽室の噂の真相は渡瀬ということ。
虚弱体質により普段の授業にでられないこと。
たまに会いに行くこと。

谷口は少々腑に落ちなそうだったが、
「ほどほどにしとけよ」
と言うだけだった。

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「や、渡瀬」

月が大きな夜だった。

俺が声をかけると渡瀬はピアノを奏でる手をとめ、
こちらを振り向くと「こんばんは」と会釈をした。

「今日はどんな曲を弾くんだ？」

「うーん、そうだね...」

手を口元に当て、伏し目がちに考える動作をする。

「レヴィツキのワルツにしようかな」

「おぉ...」

「知っているのかい？」

「いや全く。」

渡瀬はくすくす笑いだした。

「ピアノ方面は疎いんだよ...というかお前笑い過ぎだろ、涙出てるぞ」

「ごめんごめん、君といると退屈しないね」

月の光に照らされた渡瀬の顔は酷く美しく見えた。

「これまた綺麗な曲だな」

「そうだろう？」

「終盤の盛り上がりが賑やかでいいな」

「ありがとう、次は...」

渡瀬がそう言いかけたとき

ﾀﾝﾀﾝﾀﾝ

誰かが階段を登ってくる音がした。

「...見廻りの先生だと思うよ」

渡瀬はやけに冷静だった。

「ど、どうしよう...どこか隠れる場所」

「あそこ」

渡瀬が指さしたのは音楽室の片隅にある掃除用具入れ。

「え...2人ではいるのか...？」

「時間が無い、早く」

ｶﾞﾀﾝ

足音はだんだん近付いてくる。

俺たちは息を押し殺す。

2人が密着する。

渡瀬の体がひんやりとしていたことだけ、覚えている。

＿＿＿＿＿

「...行ったようだね......どうしたんだい？」

「いや！なんでもない大丈夫だ！」

「ならいいんだけれど...もう今日は早めに切り上げた方がよさそうだね」

少し残念そうに微笑む渡瀬。

「ああ、そうだな...

今日もありがとう」

「こちらこそありがとう、新崎くん」

そして俺は
第1音楽室を後にした。

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