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17episode.◇ ページ17

それから先生は私に構うのをやめた。
諦めてくれたのだろう。
面倒ごとにならなくてよかったと胸を撫で下ろす。
依然として私への嫌がらせは続いていた。
私は嫌とも良いとも思ってないけど、
ただ最近はちょっと不便だ。

忘れ物を借りることが出来ないのは痛い。
それぐらいの些細な理由だけど。


数日経ったある日の放課後、
いつものように適当に教室で時間を潰して、
そろそろ皆と出くわさない時間かな、と思い、
教科書類をかばんに詰めはじめた。

ちょうどその時教室のドアが開いた。


「あ、躑躅森先生。久しぶりです」

こんな時間に。
すごく中途半端な時間に上がってきた。

疑念。
わざわざ先生が来ることにも思い当たる節がある。


「忘れ物ですか?」

でもなんとか普通で無難な言葉が出てきた。
いつものように微笑を浮かべたまま先生を見つめる。


「いいや、Aと話に来た」

そう言って私の前の人の席に座る。
何なんだろうか、まだ前の話をぶり返すつもりでいるんだろうか。
強情な人だなぁと思ったけれど顔にはでない。
依然にこにこしたまんま。


「へー、何の話ですか?」

とぼけてみる。
先生は表情を変えずに話を切り出した。


「進路。どうするつもりなんや?」

と全く関係ない方向の話題。
前の話題をわざと避けたのか、
本当に忘れているのかわからなかったけれど。

とぼけたような調子を引きずって、
そういえばそういう時期ですねぇ、と言った。
そっか。進路学習ってもう二年の時期から始まってるんだっけ。

「決めてないです」

そう言った。
そっか。私には夢もないのか。


「お前なら大学も目指せると思うけど」
「いいですねー、大学生」

先生の思わぬ方向からの言葉に驚かされてばかりだ。
今まで小学、中学、高校と特に何も考えずに進んできたが、
自分で道を選んでみたら、もしかして人生が変わるだろうか。
何か夢に向かって走ると人は変わるんだろうか。

感情はよくわからないが思惟はよくする。

目の前の先生はなんだかぼんやり私を見つめていた。
ちょっと面白くてクスリと笑う。


「話はそれだけですか?」
「え、あ、あぁ」

ハッと意識が戻ってきたみたいな先生。
やっぱりおかしな人。
でも生徒に人気な理由少しわかったかもしれない。

「それでは、失礼しますね」


にこっと笑いかけてかばんを背負う。
流れるように教室のドアまで行って、

先生を振り返り手を振った。

──なんで私は手なんか振ったんだろう。

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作者名:つづみも | 作成日時:2019年12月9日 5時

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