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31episode.T ページ4

何も言えず硬直しとるAに一歩一歩歩みを進める。


「生徒も先生も関係ない。好きな人の隣におりたいんや」


より近く、もっと近く。
相手の間合いに入る感じ。
相手との距離僅か一メートルのところで歩みを止めた。


「嫌なら、もちろん断ってもらっていい。でも……少しでも俺に好意があるなら………俺の隣におってほしい」


少しでもお前に辛い思いは背負わせたないから、嫌なら断ってくれてかまへんかった。
でも、今のAは前と違って
無理して取り繕っとるように見えた。

だから───


「俺の隣におってくれないか?」


じっと見つめる。
時間がゆっくり動いていた。
虚無で底知れぬ暗闇のような瞳。
いつも宿している偽りのハイライトが見えなかった。
瞬きする睫毛のしなりさえも俺を緊張させた。


そして、ゆっくりゆっくりと、
俯いた無表情な彼女の目尻から
水晶みたいな涙がこぼれ落ちた。

どんどん、どんどんおちてくる。
ボロボロ落ちる涙とともに、
時間も元に戻る感じがした。



「………っせんせ」


俺の右手をそっと掬うと
その柔らかくて小さな両手でギュッて握ってくれた。


「……お願いします……せんせ……」


ぽろぽろと落ちていく涙。

泣かせたかったわけやなかったけど、
その潤んだ瞳にみたことないほど綺麗な光を見出だした。


──これで、よかったんよな……


彼女を引き寄せてそっと抱きしめた。
温もりが全身を痺れさせて、
もう離したくないと思う。


「せんせ……ありがとうございます………先生……大好きです………」


……こんな愛しい子他におらへんで。

「あぁ……俺も」

もうA以外有り得ない。

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作者名:つづみも | 作成日時:2019年12月16日 17時

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