からっぽの生徒/中編【躑躅森盧笙】 (ページ18)

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45episode.◇ ページ18

来たのは水族館。
理由は高校生が遊びにくるイメージがないから。
一応、私たちは先生と生徒でもあるから。
人目に付かないに越したことはないのだ。

水族館なんていつぶりだろう。
小学生のとき地元の水族館に行ったぎりだったと思う。
少し新鮮かもしれない。
ここオオサカの水族館。

ちょっと幻想的。
水の中の魚たちが気ままに泳いでいて、
水はキラキラと光っている。

変だなぁ。
魚を見てても食料になるべき一生物にしか見えなかったのに。
生命の神秘を感じる日が来るなんて。
ゆっくりゆっくり、ガラス越しの奇妙な生命と対面する。先生の手を引いてまるで海の中で泳いでいるように散策する姿はとても滑稽だったと思う。

「A……楽しそうやな」
「え、あ……はい……！」

先生の言葉に我に返って、自分が柄にもなく無邪気に振る舞っていたことに固まってしまいそうになった。
こんな魚介類を見るために先生の手を引いて先導してたなんて。

羞恥を隠すように戸惑いながら笑った私を覗きながら、
先生は柔和な笑顔を見せた。

と、私はここで初めてある違和感に気づいてしまった。

俯いてしまった私に先生は首を傾げる。
暗いから、顔が火照ってるの見えないといいんだけど。
私は自然と、柔らかく笑えた。

「先生私の名前……」

先生はキョトンとして、
あぁ、と先生は目を細めて穏やかな笑顔をする。

「何？恋人なんやから当然やろ」

恋人……こいびと。
かみ砕いて反芻する。

「それに……Aもこういうところでは俺の名前、呼んでくれるやろ？」

先生はそう言って照れ臭そうに笑った。
なるほど。嬉しい。嬉しいのか……
下の名前は自分自身のものだから特別感がある。

私が先生の名前を呼んだのは単純な学校と個人との区別だった。
もっと深い意味があったのか。
無意識に私自身で先生との距離を縮めようとしてたことに赤面する。

繋がれたままの手が固くなる。
心地好い。くすぐったい。
不思議で不思議で、キャパオーバーしてしまってる。

気持ちは、感情は、こんな幸せなものばかりじゃないのに。
私は自身の愚かさに気付けないまま。
先生と肩をくっつけた。