白いふわふわ、緑のぼうし〈スナフキン〉

☾·̩͙⋆ ページ6

近づくと、それは昼下がりに出会った行商隊だと分かりました。行商人達はテントを張ってその中で休眠をとっていました。明かりの灯っているテントは既になく、行商隊を照らすのはこじんまりとした焚火の明かりのみでした。

　焚火の傍には屈強そうな男がひとり、こくんこくんとうたた寝していました。実はこの男、この行商隊に雇われている用心棒で、昼は幌馬車のひとつの中で眠り、夜は商品の見張りのための不寝番(ねずのばん)を頼まれています。
　しかしこの用心棒、実は今日の昼、あんまり眠れていなかったのです。なぜ眠れなかったのかって、それはこの男にも分からないのですが、みなさんにもそんな日はありますよね。
　とにかく用心棒はすこし前までは強烈な眠気と闘っていたのですが、遠くから微かに聞こえ始めたハーモニカの音色に耳を傾けているうちに、ついに負けてしまったのでした。

　スナフキンはそんなことは知るわけもありませんから、焚火の傍で気持ちよさそうに眠りこける男を見て、なんて不用心なんだろうと思うばかりです。しかしこの用心棒以外に人影は見えませんでしたから、スナフキンのやろうとしていることはずーっと簡単になったのでした。

　スナフキンはラバと馬たちを起こさないように足音を忍ばせ、幌馬車の一つに近づきました。幌と馬車の隙間からそうっと覗くと、桃色の花の髪飾りが目の前にありました。
　目当ての幌馬車だと分かると、スナフキンは軽々とその中に潜り込みました。あんまり音を立てないように、その場でぐるっと幌馬車の内部を見回すと、瓶詰の携帯食料が積み上げられた一画を見つけました。その一番上に毛玉はいました。

　毛玉はもう、スナフキンに気が付いていました。瓶の壁に限界まですりより、自分はここだと主張するように上下していました。だからスナフキンもすぐに毛玉の入った瓶を見つけることができました。キシ、キシ、と静かに幌馬車をきしませて、スナフキンは毛玉のもとに近づきました。


「ちょっと」






　あと少し、というところで不意に左から声が聞こえました。スナフキンはびっくりしましたが、その拍子に大きな音を立てたりはしませんでした。どきどきと心臓を鳴らして声の方向を見ると、真っ白で大きなうさぎが牢の中からスナフキンを見上げていました。

「盗人さん、そいつを連れてくならボクも頼むよ。そうしてくれたら騒ぐのはよしてあげる」

　うさぎは偉そうに鼻をツンと上に向けました。

☾·̩͙⋆→←夜に隠れて

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す