02-1 ページ10
｢めっちゃうめぇ！ビール！｣
人間に戻って、おれらに挨拶した智は、いそいそと自分の仕事部屋に戻って着替えを取ってくる。
パンツがねぇ！と叫んでたので、そのパンツを捨てた当人であるおれが代わりに寝室から新品のパンツをとってくる。
そして当たり前のように冷蔵庫からビールをとり、おれの隣に座って、プルタブを開けてビールを飲む。うまい！
そして、潤くんが買ってきたクラブサンドを食べる。うまい！
｢幸せだね｣
なんて虚無感のある言葉だろう。
ビールで流し込んだはずなのに、胃から這い上がってきた徒労感が、溜め息として口外へ出る。
｢おまえ、猫だったの？｣
潤くんが代わりに言葉を出してくれる。
おれはため息しか出なくなってしまったから。
｢や、そんなことないよ。おいら人間。母ちゃんも父ちゃんも人間｣
あっけらかんと至極当たり前のことを言う智に、うんざりとしてしまう。
｢なんでか分かんないけど猫になっちゃった｣
｢なったな、って分かってたもんなの？｣
｢うん。視界がぼんやりして、低くなって、手見ると真っ黒で、最初は意味わかんなくて。
ニノが部屋に近づく足音かな、それがすごくよく聞こえて、怖くなって隠れたの。
でも、隠れてるうちに、これ猫じゃね？とか、ここおれんちじゃね？とか、じゃあ今ドア叩いてるのはニノだって、わかっていって、そこからは楽しかった｣
ニノの声聞こえた時がいちばん嬉しかった。なんて言うのよ、この人。
智…
ニノだ！て思って、机の下から出てったの。
ニノの撫でる手が気持ちよくて、でも猫になった興奮でうずうずして、ニノと話したいけど探検もしたくて、呼ばれるとニノのところに戻ったりしたの。
｢智…｣
目にかかってる前髪をよけてあげると、気持ちよさそうに目を細める。
んふふって、智がおれをみて笑う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：楽斗 | 作成日時：2022年10月18日 21時
