おさかなたべたいよ〜[気象NO] (ページ34)

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｢ニノ｣

夢でもいつでも、智はおれに笑いかけて名前を呼んでいた。

夢中だった。そんな恋だった。

智は、なんというか自由な人だった。

窓にうつったおれを見ていたってあっけらかんと言った智は、｢おれ｣ではなく、｢隣の席のやつ｣を見ていたんだ。

おれは、智のことをずっと見ていたからさ、
おれが抱えてるあの人への気持ちが、あの人がおれに感じてる気持ちと
全く違うことにも気づいてた。

｢翔くんのねー今日の寝癖すごかったんだよ｣

｢あんたの方が酷かっただろ！今もついてるし！｣

5人で昼飯を食うことも増えた。

…翔さんと大野さんが、ふたりで話してる姿を目の当たりにするのは、当時のおれにはキツかった。

いっちょ前にね、嫉妬してんの。
幼馴染のふたりに。

翔さんに、寝癖を撫でつけられて、智が気持ちよさそうに目を細める時には、弁当食って気付かないふりしてた。

｢翔ちゃんさーすっごい完璧っぽいけど案外抜けてるよね？｣

相葉さんがうひゃひゃ笑って

｢おれも翔くんのイメージ崩れたなあ｣

潤くんも頷いて

｢こないだ翔くんちに泊まった時も翔くん寝相酷くてベイブレードみたいになってた｣

｢智くんそれ言わないって約束したよね？｣
大きな声で言わないで隠してんだから

智の無邪気な話が細い槍みたいにおれの心臓をつく。

その頃のおれは、この世でいちばん不憫なのはおれだと思っていた。

野球は手の骨砕けたくらいでできなくなったし、
勉強もそんなに秀でてないし、夢もない。
高校でできた友達なんて呆気ないかもしれない。

好きな人は、おれのこと好きじゃない。

あんなに青かった空は色彩が極端に落ちて、なんにも綺麗に思えなかった。
学食の雑音が耳を劈くようで、吐きそうになっていた。