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大野と二宮の間にいる人たちが極端に少なかったから、おれたちは隣の席になった。
奇跡だと思う、普通2列くらい離れてるでしょ。入学してクラス分けされて、あいうえお順に座席が決まっていて、隣の席が、ぽやんとしていた智だった。
ぽやんとしていた智は、いつも窓の外か、手元のノートばかり見ていた。
授業中、不意に当てられたことには何も答えられなかった。テストはいつも赤点ギリギリ。
なんとか這ってこれてますって感じ。ちなみに翔さんのおかげ。
｢………すげぇ｣
そんな大野さんは、美術と体育の時間になると人が変わるようだった。
体育の時は水を得た魚のように動く。体操着に着替えた智は、無駄な肉のない綺麗な身体で、バスケもサッカーも卓球も持久走もなんでもできた。
でも、
でもおれが、おれが智をしっかり意識するようになったのは、選択科目の美術で智が描いた絵だった。
自由課題で、画材も何もかも自由。
とりあえず1作品描いてみろ、と言われたそれに、智が描いた絵…抽象画に、
おれは涙が出そうになってしまった。
こんなものを、0の状態から産み出してしまう。あの細い体で。
あの人の眠そうな目には、世界がこんなふうに映っているのかって。
もうそこからはすぐだった。
眩しい光を直接見た、目が焼けたみたいな恋だった。
鮮烈で、一瞬で、なにもかもを塗り替えられてしまった。
｢ねえねえ大野くんさ｣
隣の席とはいえ、いきなり話したことないやつに、無防備な時に話しかけられた智は、それはそれはびっくりした顔をしていた。
｢いつも何見てんの｣
顎で窓の外を示す。
智は、おれの顎に促されるように窓の外を見ては、しばらく眺めて、またおれをみて、ふにゃっとわらう。
｢窓に映ったお前｣
骨抜きにされた。
自分の席に座ってないまんまだったら崩れ落ちてたと思う。
窓にはたしかに、顔真っ赤にしてるおれが映っていた。
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作者名：楽斗 | 作成日時：2022年10月18日 21時
