04-3 ページ28
団体行動が苦手なようです。ただ、周りに興味が無いということでは無いです。仲のいい友達の感情変化を上手くとらえ、手を差し伸べています。苦手な団体行動も周りのサポートがあれば上手くこなせています。
智の、小学生の頃の成績表を見せてもらった時に、書いてあった言葉だ。
団体行動が苦手なようですっていう言葉は、文体を変えて、表現を変えて、高校を卒業するまで残っていた。
智は、猫みたいなやつだ。
智のスピードと、周りのスピードは少し違う。
大きな声で早口で喋る人が苦手で、電話もあんまり好きじゃない。
毎日決まった時間に起きて、毎日パソコンを開いて定例業務をやることも苦手。
それでも、智に創作意欲と類まれなるセンス、独特な着眼点を与えた神様は、本当に良い奴だと思う。
神様が智に与えた個性は、こいつがこの世に絶望しないための安定剤だ。
そして、この世が智を蔑ろにしないための武器だ。
｢大野さんさ、キャットフード買っとく？｣
｢んえ？｣
昼間猫でなんにもできず、昼寝までした分、夜に仕事すると言って、創作中(ではなく、するより前)に飲むココアをあっためるためにレンジの前で待っている智の後ろ姿に声をかける。
｢…認めたかないけど、アンタは多分これからも猫になって、今日みたいにおれが家を開けてる時は食う飯も無いわけでしょう？
年に数回、おれは出張することだってあるからさ。
……アンタがいいなら、猫でも食える飯を、と思ってね｣
肩から首にかけての線が細い。
智はもともと飯をあんまり食わない。
ちょっとにやけた顔してスマホの画面を見せる。
猫が、えさの皿からキャットフード食ってる商品画像。
ほへ、と口を半開きにして、Windows95の頭をガシャンガシャンと言わせながら、おれの言葉を分解して解釈した智は、
｢……うめぇのかな｣
と、前向きな返事をする。
｢最近のキャットフードは人間が食っても美味いらしいよ？｣
｢まあおいら魚好きだしな…｣
前向きすぎる。
くくって笑いこらえながら、商品をカートに入れる。
｢んじゃ、飯と給水機だな。最近のやつは自動で水が出るんだってよ｣
｢へぇ……｣
まだ口は開けたまま、こくこく頷いた智に、レンジがチーンッて呼びかける。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：楽斗 | 作成日時：2022年10月18日 21時
