横恋慕 ページ31
「キスしたことは謝ります。すみません。……でも、司咲ちゃんは諦められない」
2人の男の嫉妬がぶつかり合って火花を散らす。お互いに、一歩も譲れない。
「……渡さないよ。やっと、叶ったんだから」
「……はい。でも、いつかつばささんから奪います」
つばさは司咲に手を差し出した。顔を上げた彼女は泣いてはいなかった。
「……でも」
外だと顔に書いてある司咲につばさは微笑んだ。
「大丈夫だよ。夜だし、人通りもない」
「…つばさくんがそう言うなら…」
重ねられた2人の手。指を絡めて握ったのは、奨悟に入る隙はないのだと伝えるためだった。つばさを見て、嬉しそうに笑う司咲を見るのが辛くて奨悟は顔を伏せた。涙が溢れてきそうで、必死に耐えた。
通り過ぎて行った2人の背中を振り返る。やはり司咲はかわいくて、大好きで、だからこそ苦しくなった。何度愛を伝えても、彼女は頷いてはくれない。
奪う、なんて言っておきながらそんな自信なんて持ち合わせていなかった。
「……司咲ちゃん」
小さくなっていく背中を気がついたら追いかけていた。
「司咲ちゃん!」
腕を掴んだ。驚いた司咲の髪に触れようとして、つばさに弾かれた。
「今度、僕に時間をちょうだい。デートしてほしい」
「ダメ。司咲は俺とのデートで忙しいから、奨悟との時間は作れない」
「つばささんには聞いてないです。…ねぇ、お願い」
「…ごめんなさい」
「……まぁ、そうだよね」
掴んだ司咲の腕は細くて、少し力を入れると折れてしまいそうだった。華奢な体を抱きしめて守る役目は奨悟ではない。それが悔しかった。
「司咲ちゃん。……大好きだよ。何度でも誘うから。デートしてもらえるまで何度だって」
「…じゃあ、私も何度も断るよ。諦めてもらえるまで」
困ったように笑う姿も愛おしくて、また髪を撫でようとしてつばさに手を弾かれた。
「またね」
「あ…送るよ」
「大丈夫よ。つばさくんが一緒だから。ありがとう」
するりと腕を逃れていった司咲の背が小さくなっていった。誰よりも好きで、誰よりもかわいい彼女の胸にはやはりつばさがいるのだと、思い知らされた。手を繋いだまま歩く2人は微笑み合っていた。お似合いだと、誰かが言っていた。でも、そんなものは認めたくなかった。横恋慕だと分かっていても、止められなかった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年3月16日 12時