髪ゴム ページ10
でも、つばさは司咲から離れる気なんて毛頭ないだろう。何度突き放しても彼は司咲に関わることをやめなかった。それはきっと基裕も、来夢や涼星たちも同じ。
ならば、精一杯護るだけだ。もっと、強くなりたい。つばさを、司咲が関わる全ての人を護れるように。もう独りにはなりたくない。独りだったあの頃には戻れない。
「…私を、置いて行かないでよ。……バカ」
ぎゅっと司咲は腕を彼の背中に回した。
巻き込むのが司咲のせいならば、誰かを愛するのはつばさで最後にしようと思った。大嫌いだったのに、どうして今はこんなに愛おしいと思うのだろう。
「ごめん。心配かけて、ごめん」
止まらない涙がつばさの服に染みをつくる。
「…帰ろう。今日はもう遅い」
「……立てない」
「え？」
「……霊力使いすぎたから立てない」
「もしかしなくても、俺のせいか…」
「そうよ。…だから、今日だけは側にいて」
つばさは微笑むと、司咲を横抱きにした。急に景色が反転して、司咲は目を回した。
「ちょ…っ！もっと丁重に扱って！」
「…ごめん」
ぎゅっと目を瞑る司咲はつばさの襟に掴まった。文句を言う司咲の瞼に一瞬口付けたつばさは転がっていた彼女の鞄を拾い上げた。
「…髪ゴムも拾ってほしい」
「…これ？」
拾い上げられた髪ゴムはボロボロで、もう使えない。それでも、司咲はそれを捨てられなかった。
つばさから受け取った髪ゴムを握りしめると、司咲は再び彼に掴まった。
「……ねえ、好き。今日だけ、なんて言わずにずっと側にいさせてよ」
「…それは嫌」
司咲はふいと顔を背けた。司咲のその反応が少しだけ寂しくて、つばさは瞳を揺らした。かわいい瞳とは目が合わない。
「……好きだよ」
「はいはい」
「…つれないな」
素直になれなくて突き放してしまう。紡がれる『好き』という言葉がキュンと胸を締め付けた。
「…ひぃ」
外に出ると、何対もの瞳が司咲を見ていた。決して害のあるものではなく、ヒソヒソと聞こえる声は妖怪を調伏したことへの称賛。だけど、それでも恐ろしくて司咲はつばさの首に腕を回して抱きついた。
「…早く帰ろうか」
「うん。…崎山さんの家に連れて行って」
「いいよ」
つばさは司咲を抱え直すと、タクシーをつかまえて乗り込んだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
