会いたい ページ44
ぎゅっと抱きしめられた。背中に回るつばさの大きな手が優しく髪を撫でた。
「俺だけじゃなくて、博喜も涼星も来夢も皆司咲ちゃんのこと大好きだから、いない方がいいなんて思わなくていい。そこにいてくれるだけでいい。痛みごと全部抱きしめるから、教えてほしい。どこが痛いのか、何が苦しいのか」
「無理よ。だって、分からないの。何も覚えてないの」
新しい涙が頬を濡らす。つばさの肩に触れた手が縋るように服を握った。
「…会うことは、許されない」
手も声も震えていた。親の愛を知らずに生きてきた。それ故の思い込みだった。
「でも、叶うなら…。遠目でいいから、会いたい」
「うん。会いに行こう。一緒に探そう」
司咲の頭が上下に揺れた。泣き崩れる司咲を何も言わずに抱きしめた。
「大好き」
その呟きに司咲は小さく吹き出した。
「私は嫌い」
「…笑った」
肩を押して離れた。その時にはもう、口角は下がっていていつも通りの表情に戻っていた。
「も、もう一回。笑って」
「嫌よ」
頬に触れるつばさの手を払った。
「お願い。俺にも笑顔見せて」
「絶対嫌よ」
身を翻す司咲の手を掴んだ。
「離して」
「何でもするから！笑ってください」
「何でも？」
頷くつばさに司咲は口角を上げた。
「じゃあ、博喜さんと2人きりになりたい」
「……それは…」
掴まれた手が緩んだ。心を貫くものは刃物でも視線でもなく、司咲のその言葉だった。たった一言でつばさの心は重傷だった。
「…嫌だ…」
「じゃあ私も嫌よ」
ふん、と顔を背けた。つばさの前から立ち去ろうとする司咲の腕を掴んだ。
「待って」
「何？」
「俺じゃ、ダメ？」
「寝言は寝てから言え」
今度こそ背を向けようとした司咲の両手を掴んだ。
「ま、待って！」
ぎゅっと両手を握って、つばさは頭をフルで動かした。仕事中でもこんなに早く動かしたことはない。ただ彼女の笑顔が見たくて必死だった。
「じゃあ！え、映画は？3人で！」
「邪魔しないって誓える？」
「…それは…。誓えない…」
「じゃあ嫌よ」
離れようとする司咲を必死にその場に留めようと、司咲の両手を合わせて包み込むように握った。
「あ、えと…。お、お…温泉、とか！俺、結構長湯しちゃうと思うから…！」
「はぁ？」
「あ、えと…」
「ふっ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
