おばけじゃない ページ6
翌日。泊めてもらったお礼に朝ごはんを作り、一緒に食べて基裕の家を出た。昨日の雨なんて感じさせないほどの晴天だった。だけど、雨のおかげで基裕に会えたのだと思うと少しだけ良かったかもしれない。
新宿駅から府中駅まで電車に揺られて約30分。家に帰る前に大國魂神社に立ち寄った。神社には何もいない。神聖な場所だから、霊も寄ってこない。空気を吸い込んで、目を瞑る。神社の敷地内だけが唯一気が抜けるところ。
すっと本堂に視線を向ける。
「
朝の神社は人が少なく、ボソリと呟いた言葉には誰も気づかない。
《好きなだけ滞在すれば良い。そなただけ特別扱いなどできぬ》
「ですよね…」
乾いた笑みを浮かべて、司咲は太陽に向かって両手を伸ばして伸びをした。
今日から司咲は無職だ。どうしようかと考えながら歩く。バイトを探すにしても、また正社員で就職するにしてもまずは情報収集から始めなくてはならない。何ができるだろうと頭の中でぐるぐる考えた。今まで職は点々としたが、OLしかやったことのない彼女はそれに酷く傷つけられたのだ。
もう戻りたくない。だからといって何ができるかと言われれば、特技なんて全く思い浮かばない。
盛大なため息を吐いた時。
「あっ」
不意に後ろから声がした。思わず振り返ってしまい、硬直した。
ここは神社で、霊や妖は例外なく入ってこれないはずなのだ。驚きでつい凝視していると、近付いてきた。
「……え」
「待って!俺、おばけじゃないから!」
逃げようとする司咲に必死にそう言う彼。
「なんなら確かめて!」
そう言って手を差し出してくる。司咲は目をぱちぱちと瞬かせてから、恐る恐る近づいてその手を握った。
温かくて、大きな手だった。基裕と同じくらいの大きさだろうか。
「…っ!ごめんなさい!」
その手には確かに血が通っていた。よく見ると、彼の輪郭もぼやけていない。
その手を離して、慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません。生きている人間におばけだなどと…!」
テンパっていたとはいえ、昨日の自分を殴りたい。
「理解してもらえたなら良かったです。頭上げてください。大丈夫ですから」
頭を上げた彼女は泣きそうな顔で俯いた。
「どうしておばけだと思ったんですか?」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月29日 15時